芳町のお姐さんと、お座敷の会に行ってきました

日本橋人形町で江戸のくずし字講座をやっています。この人形町には、芳町芸者のお姐さん方がいて、これまでも何回か,お座敷の会にお邪魔しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらの見番で、お姐さんたちの踊りを楽しむお座敷の会が開かれ、第一回ということで、出かけてきました。本来のお座敷には敷居が高すぎていけませんが、ガラ・コンサートのようなもので、十四、五名のお客様が踊りを見せてもらいます。

芸者衆というのも、絶滅種族だそうで、江戸からつづく芸能保持者。日々の研鑽を積まないと、踊りも披露できません。そんなお姐さんたちの華やいだひとときをあじわってきました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三味線、長唄などのお姐さん方。

 

踊りの後は、お座敷遊びを披露。「虎、虎、虎」は、国性爺合戦【こくせんやかっせん】に出てくる、和藤内(わとうない)、虎、おばあさん(和藤内の母)の三者が踊りに合わせて、ジャンケンして、勝ち負けを決めます。虎とおばあさんは、虎の勝ち。虎と槍は槍の勝ち。槍とおばあさんはおばあさんの勝ち。対戦者が互いに見えないように中央には屏風を立てます。もちろん、観客には全部が見えますから、愉しいのです。

お座敷遊びは原則、全員参加ですから、ゆっくり座っている人も駆り出されて、音曲に合わせて、おばあさんや、虎に扮装します。

その後は、雅な遊びで、扇を投げて、的を落とします、投扇興(とうせんきょう)といいます。こちらも二人で対戦します。

そんなことをしているうちに、すぐに時間は経ってお開きとなりました。華やかなお姐さんたちと過ごす至福のとき、また、開催してくれるそうですので、それも楽しみ。大人の時間でした。

ワーグナー生誕200年記念 日比谷オペラ塾 『ワーグナーへの愛』に行ってきました

今年,2013年は、ワーグナーの生誕200年にあたります。その魅力をさまざまな面から学ぶために、日比谷オペラ塾 『ワーグナーへの愛』が開催されます。その第一回目が第1回 ワーグナー「指環」早わかり、講師は井辻朱美(白百合女子大学教授)さんでした。

2月にパリ、オペラ・バスチーユで、ワルキューレを見たばかりですので、今回の講演は本当に楽しみでした。「指環」は、全編が14時間以上の大作。普通は4夜に別れて演奏されます。日本の新国立劇場では、毎年、一夜づつ4年もかけて上演されました。そんな大作を2時間で語るというのは、大変なことです。

井辻さん自身が、「指環」を読むためにドイツ語を習ったというマニアックな専門家。見どころの解説の後には、実際のCDをかけながら、登場人物たちのライトモチーフ(テーマとなる音楽)を聞き込んでいきます。複数の登場人物がでるときは、当然ながら、こちらの音源が重なる訳ですから、それを見事に表現しているワーグナーの音楽的センスには驚かされます。

鑑賞も批評も、同じ公演から出発して、視点の広がりの違いで、見えてくるものも少し変わります。それが面白いのです。この講座、フェニーチェ劇場友の会が主催で、少し意外な気もしたいのですが、ワーグナー自身、べネチアをしばしば訪れ、繋がりがあったそうです。

AISソムリエ養成コースの体験コースに参加しました

2月にモンティカティーニに出かけたとき、AISソムリエ養成コースの体験コースがありました。残念ながら、その日はフィレンツェ市内観光に出かけて,参加できなかったのです。

3月にイタリア文化会館で、同じコースが開催されることを知り、申込しました。3/8 (金) 18:00~21:30   スプマンテ / パッシート、遅摘みタイプのワイン、貴腐ワイン、アイスワイン、リクオローゾ、アロマティザートワインの体験コースです。

イタリア文化会館には、語学講座でずっと通っていましたので、とても懐かしく九段下から、坂道を登って出かけました。講座は、ソムリエになるために必要な知識として、かなり専門的な詳しい内容でした。講師のRoberto先生が解説し、それを日本人ソムリエの亀山さんが日本語で説明してくれます。

スプマンテの製法には、大きく2つに分けられ、自然発酵にも三種類あります。
1. Naturali (自然な)
Metodo Classico 参考動画
Metodo Charmat 参考動画
Metodo Marone-Cinzano

2. Artificiali (人工的な)
Addizione di CO2

製造方法の説明のあとは、どんなぶどう品種が使われるかの解説になります。
Moscato, Brachetto, Chaardonnay, Pinot Noir, Pinot Meunier, Pinot Bianco など。

解説のあとは、実際のワインを3種、試飲して違いを習います。2コマなので、最初はスプマンテ、後半はデザートワインをテイスティングしました。

透明度、色、粘性、強さ、クオリティ、ワインの構造など、各項目に気づいたことを書き留めます。Roberto先生の洞察力、そして、感性はすばらしく、どのような香りがするのかを、次々と指摘します。たとえば、パイ生地にジャムやリンゴを載せて焼く匂い、ローストナッツの匂い、洋梨の匂いなど,次々と思い浮かぶイメージを連想させていきます。

ソムリエというのは、こうも創造力が必要なものだと思いませんでした。ワインのボトルに隠された秘密を解き明かすのが仕事なのですね。デザートワインでは、最後にグラスを空にして、どのような香りが残っているのか、チェックをしてみました。空のグラスにすることで、より深い香りを知ることができるのです。

『屋根の上のヴァイオリン弾き』舞台通し稽古に行ってきました

東宝演劇部様主催『屋根の上のヴァイオリン弾き』舞台通し稽古見学に参加しました。ブロガー招待ということで、日生劇場の最前列で拝見できました。

この『屋根の上のヴァイオリン弾き』は、1988年頃、帝劇で観劇しています。そのときは、上条恒彦のテヴィエ、淀かおるのゴールデでした。

今回は、市村正親のテヴィエ、鳳蘭のゴールデという黄金コンビ。二人の繰り広げる夫婦、親子の愛がすばらしかったです。 物語は1905年、ロシアのアナテフカという寒村で、酪農家を営むテヴィエには、25年連れ添った妻ゴールデと、5人の可愛い娘たちがいます。貧しいけれど、幸せな家族。ここに住むユダヤ人たちは、しきたりを守り、静かに暮らしているのでした。

そんな中、娘たちに縁談が持ち上がります。驚くパパのテヴィエ、でもどんなことがあっても、娘たちを愛し、彼女たちが幸せになることを願って、テヴィエは許すのです。市村さんの演ずるテヴィエは、100年ほど前、本当にこんなパパがいたのだろうなと、思うくらい自然です。彼はまた、信心深く、神との対話もたくさんあります。

現代の生活では、神と語ることなどほぼないけれど、神を信じる生き方というのは、すてきですね。

妻ゴールデは、口煩いけれど、娘たちの幸せを誰よりも願って、細々と家のことを気遣っています。実生活でも二人のお嬢さんをもつ、鳳蘭さんならではの、演技が光っていました。三人の娘役もそれぞれに違った個性を演じていて、わかりやすいです。踊りもよかったですね。以前見たときは、台詞が多かったように記憶していますが、今回のものは、テンポが軽妙で飽きません。

ネタばれにならないように、多くは書けませんが、最後にはたくさんの別れがあるので、ハンカチを用意しましょう。
ぜひ、劇場にお越しください。ミュージカルって楽しいですよ。

パリの錠前橋

ルーブル美術館から、サンジェルマン・デプレに向かう途中に、ポン・デ・ザール (Pont des Arts :芸術橋
)があるが、ここのフェンスに、南京錠がびっしりぶら下がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

いっしょにいたミラネーゼに聞くと、元々はイタリア映画で紹介され、それがあっという間に流行したとのこと。愛し合う恋人たちは、南京錠に二人の名前を書き込み、ここにぶら下げる。そして、鍵はセーヌに投げ込む。二人の愛は永遠に結ばれるというわけだ。

一時、全部撤去されたらしいが、また、懲りずにぶら下げているそう。受験生が絵馬を奉納するのにも似ている。鍵を捨てた二人が、本当に幸せになれるのかは、神ぞのみ知るべし、である。

元になったイタリア映画は、Ho voglia di te (I want you)

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二期会の「こうもり」を見てきました

二期会創立60周年記念公演の1つ、「こうもり Die Fledermaus」を見てきました。私が見たのは、2/21の小貫グループ。アルフレード役の高田正人さんが、すてきなブログで紹介記事を書いています。

今回は、演出なのか、アドリブが多くて、本当に愉しかったです。ウィーンでオペレッタをみたら、たぶんこんな感じなのかな、と思えるくらい。劇の始まりが、アルフレードが、指揮者に向かって、最近の指揮者は踊りもできるのね、と話しかけます。

事実、大植英次さんは、愉しそうに踊りながら序曲を指揮していました。有名な話ですが、恋と、ばか騒ぎ、そして、貴族になったり、女優になったりと、登場する人がみんなその人生を膨らませて、演ずるのがみていて気持ちがよい。

アイゼンシュタインのお茶目な三枚目も、そして、堂々としたハンガリーの貴族を歌う妻のロザリンデ、女中のアデーレまで、女優に扮して、舞踏会に招かれます。

恋のだまし合いや、そして、お金はあるものの、退屈しているロシアの公爵。人物の設定がすてきなので、演ずる人も生き生き見えます。アルフレードは、声量もあり、アドリブも随所にあって、最後の刑務所のシーンでは、トゥーランドットの Nessun dorma 誰も寝てはならぬ を二人で歌い上げます。

三幕なのに、あっという間に終わってしまって、もっと見ていたいなあと思いました。
二期会の豪華なキャスト、そして濃い中身に感激した夜でした。

カテゴリー: 日常

パリ、オペラ・バスチーユで、ワルキューレを観る

パリ最終日、帰国は23:20のエールフランス深夜便。調べてみると、この日は、オペラ・バスチーユで、ワーグナーの指輪シリーズのワルキューレの初日でした。マチネなので、14時から19時半くらいの予定のはず。つまり、オペラをみて、タクシーでCDG空港まで駆けつければ、飛行機に間に合います。なんという幸運と、さっそくパリ国立オペラの会員になりました。

演出はPhilippe Jordan (Direction musicale)、モダンな舞台です。これまで、みた、どのワルキューレよりも、哀しみ、愛、そして、恐怖が際立っていました。不幸なカップルたちの愛の物語なのです。舞台の始まりは、裸の男たちが次々と殺され、それを眺めているジークムントとジークリンデ。二人は引かれ合い、愛し合いますが、哀しい結末が待っています。

そこには、絶えず死が用意されていて、死出の旅路を連想させます。近松の道行きのような透明感があって、二人の行き着く先は死しかないのだと予想させます。

フリッカは、まるで真っ赤な薔薇の精のように、舞台を遠くから眺め、近づきます。この場面では、鏡が舞台を写し、観客は上から映し出された映像を眺めることになります。細部まで見えて、隠すこともできない神々。ヴォータンは、まるでカジノで全財産を賭けて、すべてを失った男として描かれます。新国立劇場のヴォータンは、モーテルでみえないテレビを眺めていました。

有名な「ヴァルキューレの騎行」も、乙女たちは、死人の身体を拭き、次々と蘇らせ、また、新しい死体を運び込んできます。このイメージ、日本では、見たことがありませんでした。ドイツの収容所を連想してしまいます。この前に「神風KAMIKAZE」をみたので、戦い、死体、その運搬というのが、とても怖いです。

ジークムントとフンディングの戦いで、ジークムントは折れた剣と共に殺されます。そのとき、ヴォータンはフリッカを突き出し、よく見ろ、お前が望んだようになったと、、死人を見せるのです。

ブリュンヒルデが父、ヴォータンの命令に逆らい、身ごもったジークリンデを逃がすのですが、その罰として、岩山に閉じ込められ、彼女を最初に発見した男のものになるのだ、といわれます。ここからが、今度は父と娘の愛の物語なのですが、パリでみたものは、二人の間の性的緊張関係、それは、フリッカには感じなかった深い愛憎を見つけることができます。この二人も愛し合っていたのか、と今さらながら気づきました。愛故に永久に離れ離れになる二組のカップル。ジークムントとジークリンデ、そして、ヴォータンとブリュンヒルデ。

ここでは、黒衣の花嫁衣装を身にまとったフリッカが去っていきます。

もうひとつの男女、ヴォータンの妃のフリッカと、ジークリンデの夫、フンディング。二人は正式な結婚による配偶者のはずなのに、なぜか、心の通じ合わないカップルとして描かれます。この悲劇も、忘れてはいけないでしょう。

演出はモダンですが、取り上げられているテーマは、愛。愛の物語だったのです。字幕は、英語とフランス語で舞台上部にでます。わからないときは、それを眺めながら、そして、心の動揺に震えながら、この愛の物語を堪能しました。席は前から五列目。オペラグラスなしに、舞台で何が起きているのかがよくわかります。音響もすばらしい。この新しいオペラ座は、どの席でも舞台がよく見えるように設計されているそうです。

19時過ぎに終わり、長いカーテンコールが始まったのに、中座するのはたいへん心残りでした。バスチーユから、タクシーを捉まえ、第二ターミナル、Eゲートまで、これを逃すと帰れません。次回は、ゆっくりとオペラを鑑賞できる日程にしようと思いました。

ビジュアルについては、こちらのサイトを参考にしてください。すてきな場面の写真が載っています。

1. ジークリンデも「あなたこそ春です」と歌い、二重唱となると、外には桜の花が咲いている。

2. 真っ赤な薔薇をイメージしたドレスを来たフリッカが、夫ヴォータンに、不倫、兄妹の近親相姦を抗議しにくる。赤は情熱ではなく、怒りの象徴。煮えたぎる血潮だ。

3. 疲れて眠りに落ちるジークリンデと、ジークムント。

4. 岩山に閉じ込められるブリュンヒルデ。傍らに立つのが父親のヴォータン。

フィレンツェは、歴史的遺産の国

初めてフィレンツェを訪れてから、40年になる。団体旅行、個人旅行と、もう15回以上出かけている町。今回パスポートを見たら、五年ぶりだった。町は変貌する。旅行者たちの質や、意識も変わる。

かつて、お買い物客で溢れていた町は、その意味では静かだ。アウトレットができ、インターネットのおかげで、日本にいてもイタリアモノが手に入る。わざわざ出かけて、免税手続きしなくても、宅配便で家まで届けてくれる。そういう時代に、昔ながらの商売は難しい。経営者の代もかわって、なじみの店が、名前が変わっていた。

五年間というのは、やはり長すぎる。せめて、二年に一度は出かけなくちゃと思った。町の勢いが無くなっている。なじみのホテルも改装中、星が減っている。また、新しいところを探さなくてはと思った。しかし、この町に何泊もしたいだろうか。

疲れて空腹なときは、どんなにすばらしい芸術をみて、感動しない。まず、胃袋を納得させなくてはと、レストランを探しつかれて、カフェテリアを思い出した。この店は、少々お高いが、品質がよく、味わい深い。おなかに何かが入ると、少し元気がでる。

混んでいるウフィツィには出かけたくなかったが、乗ったバスがそこで止まったので、降りた。さすがに二月の観光客は少ない。切符の列もなく、スムーズに入れた。

見たいと思っていた、ボッティチェリの「ビーナスの誕生」、「春」、そしてダヴィンチの「受胎告知」をまじかでゆっくりと見ることができた。 中はあちこちで改装中。屋上にカフェテリアができていて、そこから写したドウモの風景。

この町は美術館と、建物の面白さで、勝負するしかないのだ。

買い物も、食事も、ここでは、長居をしたくないと思った。

昔家族で何泊もして、美術館を巡った日々が夢のように思える。長年つきあった恋人がくたびれてきて、どうしようか、と迷っているところだ。

パリから、ベネチアへの乗り継ぎ便がキャンセルになる

2/10に日本を立ち、パリ経由でベネチアに着く予定でした。パリには定刻に到着し、長いターミナルを歩かされ、18:15発のベネチア行きに乗り込みました。すると、ベネチア空港が閉鎖されているので、しばし待つようにというアナウンス。二時間待って、結局便はキャンセルになりました。

振り替え用の便が21:15に出るからと、そちらのチケットを発券され、ゲートで待つことに。アナウンスのたびに出発時間が遅れて、10時半の段階ですべてキャンセル。どうなるのかと、思うと、隣の日本人団体の添乗員さんが大声で怒鳴っていました。

日本からの乗り継ぎ便に関しては、責任があるから、今夜のホテルを用意させます。頼もしいお言葉。海外で困ったときは日本人団体の近くにいて、同行したほうがお利巧。近くにいた個人客四人でカウンターで交渉すると、翌朝のチケットと、ホテルバウチャーまで発券してくれました。

さて、ここからが大変。シャトルでターミナル2までいったのですが、ホテルの運行バスは11時半で終了。近くにいたタクシーに聞くと、30ユーロ払えば連れて行くと、吹っかけます。同行者がいたので、二人で別のタクシーを見つけると、こちらは15ユーロでよいというので、乗り込みました。着いたのはホリディインCDG。フロントには、同じ仲間が並んでいます。このホテル、ビジネスと、エコノミーでは違うようです。先着順にホテルもフライトも決まるわけで、遅くなると昼便になってしまいます。

翌朝は7:20の便で、空港には六時までに来るようといわれていました。こちらもホリディインCDGの前でシャトルバスを待ち、ようやく無事にベネチアに飛び立つことができました。

マルコポーロ空港から、バスでローマ広場まで、そこからホテルは歩いて7分とのことで、探しました。迷った先のホテルで教わって、なんとか到着。人の親切に助けられての旅です。

オペラ「KAMIKAZE-神風-」を見てきました

三枝成彰さんの新作オペラ、「KAMIKAZE-神風-」世界初演の初日に出かけた。神風というのは、特攻隊のことで、戦争のオペラなのか、と思ったら、違っていた。

戦争という異常な状況の中で、男と女が愛を貫くことの困難さ、そして、愛国の心から、死と向かい合う若者。そんな愛のドラマだった。

舞台は、鹿児島の知覧飛行場、ここで特攻隊の隊員たちが訓練され、そして、出撃を待つ。三枝さんのオペラは、始めてだったが、メロディの美しさに感動する。アリア歌詞は知子・愛子は、大貫妙子さん。哀しさ、切なさ、無念さが胸を突く。

愛子役の小林沙羅さんは、知覧まで取材に出かけている。だから、あんなに思いがこもった演技ができるのだ。

主人公の神崎光司少尉 (配役: ジョン・健・ヌッツォさん)と、土田知子 (配役: 小川里美さん)は、実在の人たち。二人が過ごす最後の二日間。婚約者を訪ねて、東京からやってきた知子は、光司が特攻に志願していることを知らなかった。白いワンピース姿の知子が象徴的だ。

二人の愛のアリアがすばらしい。最後の別れの知子が歌うアリアも、哀しく、清らかだ。昔の人たちは、本当に美しい言葉を知っていた。戦争という極限の事態では、個人というのが、まず押しつぶされる。お国のために、死んでいく若者たち。そして、残されたものだけで、国は存続するのか。

このテーマをオペラ化しようと考えた、三枝さんも、昭和の人。こういう悲惨さ、不条理さは、後世に伝えなければいけないと思う。

ここに出てくる冨田旅館のひい孫たちも、初日に見に来て、曾祖母役の坂本朱さんの演技に泣いたそうだ。

初日で、涙がでるくらい感激したのだから、最終日は、さぞかし、濃厚な歌劇になったと思う。指揮 大友直人さん、美術 千住 博さんという豪華なメンバに囲まれて、三枝さんの才気も光っていた。

最後の桜吹雪の中での終焉は、近松の心中ものを思い出させる。演出もきわだっていた。

知合いが、この作品に出ていたので、実は8月頃からチケットを購入してあった。たぶんそうでなかったら、見逃していたかもしれない。日本では、日本人による新作オペラというのが、評価されにくいのだ。そういう意味でも、この成功はうれしい。