天理ギャラリーで、「手紙」展を見る

神田錦町にある天理ギャラリーでは、年に二回くらい、企画展を開催している。今回は、「手紙」がテーマだ。

手紙といっても、藤原定家に始まり、伊達政宗、井原西鶴、松尾芭蕉、賀茂真淵、与謝蕪村、本居宣長、上田秋成、良寛、小林一茶、滝沢馬琴、西郷隆盛、森鴎外、夏目漱石、正岡子規、樋口一葉、谷崎潤一郎など、有名どころが揃って、展示されている。

江戸のくずし字を学ぶものに取っては、宝のような展示だ。字はその人の人となりを現すもの、眺めているだけで飽きない。今回は、とくに釈文(活字に直したもの)も配布されていて、それを見ながら、現物の字を読む楽しさがある。
入場無料、待ち行列はない。

会期 : 平成27年5月17日(日) - 6月14日(日)
時間 : 午前9時30分 - 午後5時30分
会場 : 天理ギャラリー(東京天理教館9F) 最寄り駅は小川町、淡路町など。

5/30は、「谷崎潤一郎の松子宛書簡について」という講演があり、それに参加した。千葉俊二氏 (早稲田大学教授)が、一時間半くらい、お話しした。

たまたま、松子夫人の書いた「倚松庵の夢」を持っていて、このお話を聞いたら、他の本も読みたくなった。
「倚松庵の夢」

しかし、手紙というのは怖い。谷崎からの手紙を松子夫人は、大切にとってあり、お世話になった方に差し上げていたという。破り捨てなかった手紙は残り、公開されて書簡になるのだ。

「谷崎潤一郎の恋文 – 松子・重子姉妹との書簡集」

松子夫人は、あの細雪のモデルになった四人姉妹のひとり。谷崎潤一郎は、ミューズがないと、本が書けなかったらしい。晩年には、もうひとつの書簡集があって、こちらも気になるから、取り寄せてしまった。

谷崎潤一郎=渡辺千萬子 往復書簡集

この方の祖父と谷崎潤一郎は、いくつも違わない。物語を書くための原動力になったのではないか。

天理ギャラリーから、谷崎潤一郎の考察に進むのも楽しみだ。

大関ヶ原展、そして、近代美術館へ。

江戸東京博物館で開催されている大関ヶ原展、最終日の5/17にようやく出かけることができた。入場まで80分待ち。持参したお弁当を食べながら、動く列に続く。最近の人気イベントは、どこも入場待ち。博物館がテーマパーク化しているのか。

今回の自分的目玉は、前田利家から秀頼宛にだされた書状。かれは、御拾い様と名指しで書いている。家臣の身分で、秀頼様と書くことが憚られたのか、御拾い様となんどもでてきておかしい。関ヶ原での一日を映像的に撮られた再現ビデオも面白かった。

もう400年以上前のことなのに、日本人の気持ち的には、この間の戦という感覚がある。戦いの様子を描いた絵図もあるのだが、江戸期に書かれたものがある。

特別展をみたあと、改装された江戸博を見てきた。前より、分かりやすい展示になっている。江戸の中村座の前でしばし、休憩する。
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江戸を堪能した後は、近代へということで、竹橋の近代美術館に向かった。この日は、「国際博物館の日」で無料開放されていた。博物館や美術館では、フラッシュをたかない撮影なら、可能のところが多く、楽しみが増えた。

こちらもそれなりに人出があったが、ゆっくりと絵を担当する。同時開催の大阪万博展にも立寄り、懐かしい時間を過ごした。アートな一日で心が豊かになる。

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佐伯祐三

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藤田嗣治

團菊祭五月大歌舞伎に行ってきました 夜の部

團菊祭五月大歌舞伎、夜の部は、「め組の喧嘩」。この演目は最後に見たのが、平成中村座の勘三郎だった。今回は、菊五郎が、め組辰五郎を演じている。

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今回の團菊祭は、市川家の海老蔵,左團次のほか、中村屋一門が総出で参加。全体に若返って、楽しい。

■慶安太平記
初めて見る芝居だが、松緑がうまい。いい役者に育ったと思う。立ち回りも多く、気を張って演じないと危険も多く、どきどきする。梅枝はこちらの武家の女房役のほうが、はまっている。いい女形にそだった。

■め組の喧嘩
江戸っ子の粋、意地の張り合いがみごと。菊五郎は、武家の殿様より、こういういなせな役が似合う。時蔵との夫婦役も板に付いていて、こんなひとがいたのだろうなあと共感する。

最後は、喜三郎役の梅玉がその場を収めるのだが、相撲取りと鳶の戦いは、面白い。立ち回りがおおく、はらはらとする。楽しかった。

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一、慶安太平記(けいあんたいへいき) 丸橋忠弥

丸橋忠弥     松 緑
女房おせつ    梅 枝
駒飼五郎平    亀 寿
勝田弥三郎    歌 昇
母おさが     右之助
弓師藤四郎    團 蔵
松平伊豆守    菊之助

二、歌舞伎十八番の内 蛇柳(じゃやなぎ)

丹波の助太郎実は蛇柳の精魂/金剛丸    海老蔵
阿仏坊                  亀三郎
覚圓                   亀 寿
普門坊                  巳之助
誓願坊                  尾上右近
徳善坊                  種之助
随喜坊                  鷹之資
住僧定賢                 松 緑

三、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
め組の喧嘩

品川島崎楼より神明末社裏まで
め組辰五郎      菊五郎
女房お仲       時 蔵
九竜山浪右衛門    又五郎
柴井町藤松      菊之助
背高の竹       亀三郎
三ツ星半次      亀 寿
芝浦の銀蔵      歌 昇
伊皿子の安三     萬太郎
おもちゃの文次    巳之助
御成門の鶴吉     竹 松
新銭座の吉蔵     尾上右近
二本榎の若太郎    廣太郎
亀の子三太      種之助
狸穴の重吉      廣 松
烏森の竹次      隼 人
花籠の清三      男 寅
山門の仙太      鷹之資
左利の芳松      橘太郎
三池八右衛門     松之助
葉山九郎次      橘三郎
神路山花五郎     由次郎
宇田川町長次郎    権十郎
尾花屋女房おくら 萬次郎
露月町亀右衛門    團 蔵
江戸座喜太郎     彦三郎
四ツ車大八      左團次
焚出し喜三郎     梅 玉

團菊祭五月大歌舞伎に行ってきました 昼の部

新歌舞伎座になって、三階席でも花道が2/3くらい見えるようになった。よい場所で見たいので、年会費を払って、松竹歌舞伎座会会員になっている。こちらは毎年の購入回数でランクが決まる。いまは、特別会員で、一般売りの二日前に購入できるようになった。

会員になると、毎月、「ほうおう」という雑誌が送られてきて、こちらに今月、来月の芝居のあらすじや見どころが載っている。会費はこの書籍代と思えば安い。

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五月は、大好きな菊五郎の出る團菊祭。團十郎はいないので、二人の見せ場はないが、その分、息子の菊之助が頑張っている。今回は、昼の部、夜の部と日を分けて鑑賞した。

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■摂州合邦辻
摂州合邦辻の玉手御前、菊之助が初役である。美しい継子、俊徳丸に恋を仕掛け、後を追ってくる。そして、父に刺されて初めて本心を打ち明ける場面など、見どころがたっぷり。菊之助の熱演に心打たれる。俊徳丸役の梅枝、最後に薬を飲んで元に戻るときに、いい男の色気が出るといいなあと思う。この人のために命を棄てようと思わせるいい男が必要なのだ。合邦道心役の歌六もよかった。片意地だが、筋を通そうとする姿がいい。

■通し狂言 天一坊大岡政談
初めてみる芝居だが、菊之助の悪役が見どころ。お世話になった老婆を殺すところから始まり、将軍家の御落胤と見せかけるために悪事を重ねる。池田大助を調べに使わすが、なかなか戻らないので、家族で切腹をしようと用意しているときに、大助がもどる。このあたりも忠臣蔵のパロディ調。お霜役の米吉が可愛くてうまい。この人は小粒でも存在感がある。これからが楽しみ。菊之助の満身の演技がよかった。もっと悪に徹してもいいのではと思う。二枚目が悪役をやるから、凄みがでるのだ。

昼の部
一、摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)
合邦庵室の場

玉手御前     菊之助
俊徳丸      梅 枝
浅香姫      尾上右近
奴入平      巳之助
合邦道心     歌 六
母おとく     東 蔵

二、通し狂言  天一坊大岡政談(てんいちぼうおおおかせいだん)
序 幕 紀州平野村お三住居の場
紀州加太の浦の場
二幕目 美濃国長洞常楽院本堂の場
三幕目 奉行屋敷内広書院の場
四幕目 大岡邸奥の間の場
大 詰 大岡役宅奥殿の場

大岡越前守     菊五郎
池田大助      松 緑
山内伊賀亮     海老蔵
お三        萬次郎
赤川大膳      秀 調
平石治右衛門    権十郎
下男久助      亀三郎
嫡子忠右衛門    萬太郎
お霜        米 吉
伊賀亮女房おさみ 宗之助
吉田三五郎     市 蔵
藤井左京      右之助
名主甚右衛門    家 橘
僧天忠       團 蔵
天一坊       菊之助
大岡妻小沢    時 蔵

銀座オペラ、『蝶々夫人』に行ってきました

有名なオペラの見どころを押さえた、ハイライト版の銀座オペラ。小川里美さん、高田正人さん、与那城敬さんのゴールデントリオに、オーケストラを一台で演奏してしまうという清水のりこさんのエレクトーン。

最初は、トスカでした。あまりの迫力とすばらしさに、半年後に再演、さらにバージョンアップして、椿姫。そして、2015年は、蝶々夫人と決まっていました。

この銀座オペラの特長は、こじんまりとしたホールで、歌い手さんたちとの距離が近い。まるで、自分のために歌ってくれているような錯覚に陥ります。

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蝶々夫人を演ずる小川里美さんは、客席左手の通路から登場し、歌いながら舞台に登壇。ここで、お客様の心をぎゅっと掴んでしまいます。

ピンカートン役の高田正人さん、陽気で明るいけれど、一人の女の真実の愛に気づかず、哀しい永遠の別れとなるのです。長崎にはこんな青年がいたのだろうなあ、と思わせる役への入れ込みが見事です。

蝶々夫人は、最後まで明るさと、そして武家の娘の矜持を忘れずにいます。三年間も放っておかれて、生まれた子どもすら、認知されていないというのに、なぜあんなにも信じることができるのでしょうか。棄てられた女ではなく、帰りを待ち続ける可憐な乙女のような女性を熱演してくれました。清らかな無垢の心があるから、哀しみがいっそう悲劇を生むのです。

今回、初出演のスズキ役の鳥木弥生さんの忠実な女中、そして、抑えた演技の中で哀しみを表現するのが、巧みです。明治の女になりきっていました。

シャープレス役の与那城敬さん、年齢を重ねた役に、相手の心を思う気持ちが切々と表れます。この方の人柄のよさが役の上でもにじみ出ていました。すばらしい歌唱力。もっと大きなホールで聞きたいと思いました。

そして、エレクトーンの清水のりこさん。舞台で重要な音をひとりで表現しています。オーケストラなしに、コンサートホールで本格的なオペラが楽しめるのも、この方の努力の賜物。毎回、そう思いますが、今回も特にプッチーニの音色を上手にまとめていました。

演出、そして狂言回し役の彌勒忠史さん。今回は羽織袴の明治の正装で、舞台の進行を助けます。これだけの人数でハイライト場面だけを演じても、違和感のない演出の手腕は相当なものです。

今年もすばらしい黄金週間の幕開けになりました。コンサートが終わって、銀座の町を歩くのも楽しいのです。次回、ますます楽しみになりました。