今年2013年は、ヴェルディと、ワーグナーの生誕200年という記念すべき年です。各地で特別プログラムが組まれています。、2月に出かけたパリのオペラ・バスチーユで「ワルキューレ」をみることができました。新演出によるオペラは、愛についてきわだっていたように思います。日本では、何度か観ていたのですが、まるで、違う作品を拝見しているようでした。
日本に帰ってくると、3月から4月にかけて、日比谷オペラ塾が開催されていて、『ワーグナーへの愛』4回シリーズに参加しました。その二回目で「ワーグナー、その愛と死」吉田 真(オペラ研究家・慶応大学講師)が、解説してくださった「パルシファル」。難解だといわれていましたが、ぜひ、みたいと思っていました。
バイロイト祝祭劇場では、2000年以降、新演出に変わったようです。NHKのBSでも放映され、動画もみることができますが、新しい物語のよう。そして、9月にMETライブビューイング・プレゼントに当選し、昨日、5時間あまりの大作「パルシファル」を観てきました。
すべてが予め決められていた運命のように、「パルシファル」で完結するのですね。METの作品は、支援者からの寄附を貰って作っていますから、分かりやすい、そして、美しい。最高の配役で制作されています。今回は、事前学習をきちんとして、DVDもみていました。あとは、どんな演出、どんな解釈をするのか、舞台装置、衣装、そんなものがわくわくするくらい楽しみでした。
「パルシファル」は、清らかな愚か者、これを演ずる歌手は、ビュアで、美しい男がのぞましい。今回のヨナス・カウフマンは、適役でした。
「パルシファル」は、一言でいうなら、journey
この言葉を英英で引いてみるとよくわかります: [N]an act of travelling from one place to another, especially when they are far apart,[V]to travel, especially a long distance
聖槍や、聖杯、儀式が出てくるから、難解のように見えるのですが、シンプルに素直にみていると、それは、自分の名前すら忘れた愚かな若い男が、苦しみや知恵を授かって、戻ってきて、王となる、魂の過程なのです。今回の新演出では、そう感じました。出演していた歌手たちが、この作品は、いく通りの解釈でできるといっていたように、別の解釈の新演出も、もちろん、あると思います。
今作では、舞台を現代に置き換え、衣装も黒と白のシンプルなもの。それだけに、物語の展開は、演ずる人の力量に左右されます。ルネ・パーペ(グルネマンツ)の安定した、そして、誠実な人柄がでている歌い方は、それだけで魅了されます。
なんといってもすばらしかったのは、カタリーナ・ダライマン(クンドリ)。この陰影のある、そして、運命に翻弄される女をみごとに演じきっていました。彼女がいなかったら、舞台の重厚さは、なかったかもしれない。
METオペラビューイングの特徴は、まるでオペラ劇場に座っているかの、臨場感があります。幕間には、出演者のインタビューがあり、また、舞台の入れ替わりや、設備の移動まで、写し込んでいます。指揮者、演出家がそれぞれの立場で、どんな解釈をしているのか、意図があるのかを語り、それを知ってから、次の幕を眺めると、新しい視点をもらったようで、楽しみが加速されます。
キリスト教の色合いの濃いこの作品に、仏教的な所作を加え、神と人との対比をうまくみせていました。今季のMETの中でもすぐれた作品の1つだったと思います。次回は、本当の劇場でみてみたいと、強く思いました。