文楽劇場に、仮名手本忠臣蔵第二部を見に行く

今回の祇園祭で、初めてみる文楽です。四月に第一部、大序から四段目をみて、今回は、第二部、五段目から七段目。いわゆる山崎街道、勘平腹切、一力茶屋という名場面が続きます。

おかるの父、与市兵衛も、母も情の細やかな人たちです。それだけに、台詞のひとつひとつが、はっとして、心を打たれるものが多いのです。道理はわかっているが、それ以上に親子の情愛が深い。 祇園町からの迎えは男が一人。歌舞伎では、ここで、おかみさんが付いてくるのですが、それはありません。

殺された与市兵衛が、運び込まれ、勘平は自分が舅を殺したのだと思い込んでいます。腹切のあと、殺されたのは刀傷、鉄砲で打たれたのは定九郎で、かえって、敵をとっていたのです。おかるの母の繰り言。死んだものを生き帰せと叫んだり、勘平さん、どうぞ死なずにいてくださいと、思うままに叫んでいて、名前もついていないのです。

一力茶屋の場面は、豪快な廓遊びと、そして、入り乱れる人間模様。大星の本心を知っているのは、足軽の寺岡兵右衛門だけでした。密書を読んでしまった妹、おかるに、勘平はすでに生きていないから、命をくれと頼みます。

おかるは、便りがなくて恨んでいた。近くに来てくれてもいいのにと恨んでいた。まさか、死んでいたとは。父は高齢ゆえ仕方がないが、勘平さんはまだ三十前と、嘆きます。

そして、ふたりの兄妹の心底を見届けた由良助から、兄は東のともを許され、妹は由良助に手を添えて、敵の一人である、斧九太夫を刺し殺すのです。人形芝居とは思えないほどの由良助の、人間としての大きさを感じ、久しぶりによい芝居を見せてもらったと思いました。

文楽の特長は、なんといっても、太夫(語り手)と三味線弾きが大きく貢献します。今回もたっぷりと楽しませていただきました。11月の第三部もまた、見に行くつもりです。

松竹座七月公演 昼の部

松竹座七月公演 昼の部に行ってきました。
京都は曇り空から小雨、大阪に着いたら、止んでいました。今日も、松竹座の前は大勢の人が待っています。

色気噺お伊勢帰りは、喜劇仕立て。

笑いの中に、哀しみもあって、大坂庶民の姿が描かれています。光っていたのは、梅枝のお紺。色気のある女郎ですが、嘘と誠の使い分けがすばらしい。最後に証文を女将さんから返してもらって、よくも恥をかかせたわね、この御礼はきっとします、と言い切って立ち行くワルぶり。この清楚な真面目そうな女役に、強烈な悪女をやらせたらと、わくわくしました。

厳島招檜扇
ひさびさの登場の我當が、清盛役。扇で夕日を呼び戻すというめでたいもの。元気そうな姿をみて、安心しました。役者は舞台に立つことで生きますね。

渡海屋
大物浦
渡海屋銀平実は新中納言知盛
仁左衛門さんが命がけで芝居しているのが伝わってきます。江戸風ではなく、片岡流の演技です。最後に義経に安徳帝を託して碇をつけて、沈んでいく。その覚悟がみているこちらにも伝わってきます。
夜の口上で、ぜひ、昼もみてくださいとお客様にいっていた気持ちがわかります。

今回の松竹座、いままでの中で最高だったと思います。昼、夜と見られてよかったとしみじみ感じました。

香川登枝緒 作
米田 亘 補綴
わかぎゑふ 演出
一、色気噺お伊勢帰り(いろけばなしおいせがえり)
左官喜六     鴈治郎
喜六女房お安   扇雀
大工清八     芝翫
遊女お紺     梅枝
清八女房お咲   壱太郎
うわばみの権九郎 隼人
旅芸人の座長万平 寿治郎
万平女房お千   吉弥
遊女お鹿     猿弥
家主庄兵衛    彌十郎
油屋女将おかつ  秀太郎

二、厳島招檜扇(いつくしままねくひおうぎ)
日招ぎの清盛     
平相国清盛      我當
内大臣宗盛      進之介
三位中将重衡     萬太郎
祇王         壱太郎
小松三位維盛     中村福之助
瀬尾三郎兼経 松之助
仏御前実は源義朝息女九重姫 時蔵

三、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
渡海屋
大物浦
渡海屋銀平実は新中納言知盛 仁左衛門
女房お柳実は典侍の局 孝太郎
源義経 菊之助
入江丹蔵 猿弥
武蔵坊弁慶 彌十郎
相模五郎 鴈治郎

京都観世会館で、求塚を見てきました

京都観世会館で、片山定期能七月公演を見てきました。知り合いの息子さんが子方としてデビューするということで、楽しみでした。
演目は橋弁慶。祇園祭にもちなんでいます。

能「橋弁慶」
弁慶・橋本忠樹、牛若・橋本和樹、弁慶の従者・大江広祐
都の者・茂山千三郎、鈴木実

子方は牛若で、弁慶と堂々と切りあいします。かわいらしい坊ちゃんで、物怖じせずに勤めて、これからが楽しみですね。

狂言「昆布売」茂山千作
これも関西風で、笑いました。

能「求塚」青木道喜
求塚、昔、東京国立劇場でも見たのですが、今回のはすばらしかったです。特に後シテのやつれた痩女の面と、そして、救われることのない哀しみの表現が心を打ちました。二人の人から選ぶことのできなかった女の苦しみ。リスクをとることは、自分に誠実に生きることなのかもしれません。夏の京都で、こんな充実した能楽を楽しめるなんて、しあわせでした。

 

関西・歌舞伎を愛する会 結成四十周年記念 七月大歌舞伎

osaka

今年も、祇園祭に京都に滞在していて、その合間に大阪にも出かけています。毎年、必ず大阪に通うのは、芝居が面白いから。初役の方も多いのですが、みなさまの真剣さに心打たれるものがあり、通いづめています。

歌舞伎をじっくりと味わいたいので、昼の部、夜の部と間をあけてみています。7/18 木曜日は、夜の部に拝見しました。演目の中で、『弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい) 道頓堀芝居前の場』があって、関西・歌舞伎を愛する会 結成四十周年記念と題していました。

東京では、歌舞伎座、新橋演舞場、明治座、国立劇場、浅草公会堂など、歌舞伎が毎月、何よ箇所で上演されています。それが当たり前のように、来月はこの芝居と、チケットを買っています。ところが、関西では、そうではないのですね。松竹座も、一月の正月公演と、七月の関西歌舞伎を愛する会の二回。そういえば、十一月、十二月は京都南座の顔見世公演でした。

四十年を振り返り、仁左衛門さんが挨拶されていましたが、関西で歌舞伎ができない時期があったとおっしゃっていました。映画やテレビにも出ていたし、本当に苦労があったのですね。 この日もご挨拶はしたものの、夜の部の出演はなし。

昼の部に命を賭けて、知盛を演じています。昼の部なら、贔屓のお姐さんたちも、見に来られる。清元の公演に東京国立劇場に駆けつけたときも、おわりが8時半で、新幹線の最終に間に合うようになっていました。仁左衛門さんの人気、すばらしいものです。

葛の葉は、時蔵が際立っています。障子に歌を書くのも、なれたもので、みていてうっとりします。こんな狐がいたのかもしれないと思わせるところがさすが。萬太郎の安倍保名は、難なく演じているのだが、若すぎる。あと何年かしてみるといいかもしれません。

上州土産百両首
正太郎役の芝翫は、当たり芸。そつなく、そして、本領を発揮しています。
牙次郎役の菊之助、汚れ役です。途中できりりとなるのかと思ったが、最後まで、気のいい、そして兄貴分思いの正直者を演じています。主役のひとりではあるが、菊五郎はやらないでしょう。吉右衛門の芸風かもしれません。昼の部の義経との釣り合いを取っていて、なかなか味わいがあります。東京ではみることのできない役なので、得した気分でした。 三次役の橋之助が、小憎らしくていい味を出しています。彼はワルでないと、芝居にならないから、すねたような、そして強請り、うまく演じていました。
ちょっとだけ、顔を出し、そして、親分のさりげなさをだす勘次役の扇雀がいいのです。殿様もよいが、こういう町人が似合っています。何もいわずに縄を解くところで、よい芝居をみたと思いました。
夜の部に大いに満足して、京都に帰りました。週明けにみる昼の部が楽しみです。

夜の部
一、芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)
葛の葉

女房葛の葉/葛の葉姫   時蔵
安倍保名         萬太郎
信田庄司         松之助
庄司妻柵         吉弥

関西・歌舞伎を愛する会 結成四十周年記念
二、弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)
道頓堀芝居前の場

   仁左衛門
   時蔵
   扇雀
   孝太郎
   菊之助
   梅枝
   萬太郎
   壱太郎
   隼人
   橋之助
   中村福之助
   猿弥
   竹三郎
   進之介
   彌十郎
   芝翫
   鴈治郎
   秀太郎

川村花菱 作
大場正昭 演出
三、上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)

正太郎      芝翫
牙次郎      菊之助
宇兵衛娘おそで  壱太郎
みぐるみの三次  橋之助
亭主宇兵衛    猿弥
勘次女房おせき  吉弥
金的の与一    彌十郎
隼の勘次     扇雀