奈良で、鹿に遭遇する

奈良にはどこにでも鹿がいるような気がしますが、違います。法隆寺のある斑鳩の里には鹿はいません。春日大社の参道から、奈良公園、東大寺にかけてが、野生の鹿と出会える場所になっています。

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今回、春日大社から、回りましたが、こちらは、「式年造替」のため、中に入ることができません。二月堂から、東大寺に向かう道は、なだらかな丘のようになっていて、ここが有名な若草山です。

二年前に出かけたときは、イタリア人と同行していたのですが、今回はひとり旅。途中、鹿の写真を撮ったり、木々や山の様子を眺めたりと、ピクニック気分です。二月堂は、ここからの奈良市内の眺望がすてきで、いつか、お水取りに出かけたいと思っています。

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二月堂から、東大寺本堂はすぐなのですが、今回は、奈良公園で、鹿がジャンプしながら駆け寄ってくるのに見とれていて、道を間違えました。 車が一台とまり、中から、女性が降りて、何かを置いてもどりました。すると、遠くから大勢の鹿が飛ぶようにして集まりました。 餌をたべているのです。

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終わると、満足げなようすで、ポーズをとってくれました。 こんなシーンが見られたので、東大寺の大仏様には、次回お会いすることにして戻ってきました。

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京都四條南座「吉例顔見世興行・夜の部」に行ってきました

クリスマスイブの12/24に、京都南座で歌舞伎鑑賞をしてきました。 ここは江戸の世界、しばし、現実を忘れさせてくれます。

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今年の暮れは暖かく、この日も歩くとほんのり汗ばむほど。でも、南座の中の熱気に較べれば、何のことはありません。 毎年この時期に南座の舞台をみていますが、今年の意気込みはいつもと違います。雁治郎さんの襲名披露が、ご当地、京都で締めくくりになるというのが、伝わってきます。

歌舞伎には、役者、演目、そして、襲名披露のような華が大切です。追善歌舞伎興行よりも、幹部役者が揃っての口上、何度聞いても楽しいものです。

信州川中島合戦IMG_0467ss20山本勘助の母越路は、上杉謙信方が、軍師として、勘助を招きいれようとするのが気に入らず、いろいろと難癖を付け、配膳を足蹴にする。老婆でありながら、ありえないことです。

その無礼に対して、吃りの嫁お勝が琴を鳴らしながら、詫びて、代わりに自分を手打ちにしてくれと訴える。そこで、謙信も刀の鉾を収めて思いとどまった。

というかなり難解な話です。越路を演ずる秀太郎が、自然体で天然な老婆を演じます。 歌舞伎の演目でも演ずるのに格が必要な難役です。それを必死でかばうお勝役の時蔵が熱演して、姑を思う心根が見事に表されていました。

 

土屋主税
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渡辺霞亭 作の忠臣蔵外伝のようなお話です。東京大学に霞亭文庫というものがありますが、江戸のものを熱心に集められています。江戸のことがわかっているから、このような武士の心意気を説いた物語が作れたのでしょう。

江戸時代、武士が二君に仕えないというのは、今習っている近世畸人伝にもしばしば登場します。 いまのように転職が当たり前の時代に、ここがわかっていないと話の面白さが伝わらないでしょうね。土屋主税は、本所吉良家の隣に住まいし、討ち入りの当日も騒ぎが、最初は火事かと思ったそうです。実際にはどれくらい協力的だったのか、調べてみると面白そうです。

河瀬六弥役の梅枝、若侍もうまいです。こんな人が江戸にはいたのだろうなあと、見ていました。

討ち入りと、俳諧の師匠をからめて、うまくまとめた作品だと思います。晋其角役の左團次さん、日ごろから洒脱な方なので、ぴったり。木に登ってまで様子を知りたがるところ、みなの気持ちを代表して魅せます。

雁治郎さんの主税は、駄々っ子のようでもあり、また、上品な優しい殿様でもあります。御前といわれて、じっと我慢して、見送りをしないところもかわいいです。こういうさらりとみせる作品も大切にしてほしいですね。

歌舞伎十八番の内 勧進帳
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こちらは、成田屋さんの十八番のひとつ。海老蔵さんの熱演に圧倒されました。 十一月に勧進帳は見たばかりなのですが、こちらのほうが一段と迫力を増していました。にらみも成田屋さんにふさわしく、細かな演技も練習の積み重ねがみえて、驚くばかりのできばえでした。江戸の心意気を関西に伝えてくれて、ありがとうございます。

壱太郎さんの義経も、品があって、風情を感じさせました。これからが楽しみな役者です。

すっかり、感じ入って戻ってきました。来年もまた、来ますね。

 

夜の部

第一、
近松門左衛門 作
信州川中島合戦(しんしゅうかわなかじまかっせん) 輝虎配膳

長尾輝虎    梅玉
勘助妻お勝   時蔵
直江山城守   橋之助
直江妻唐衣   扇雀
勘助母越路   秀太郎

第二、
四代目中村鴈治郎襲名披露 口上(こうじょう)
翫雀改め鴈治郎
幹部俳優出演

第三、
渡辺霞亭 作
玩辞楼十二曲の内 土屋主税(つちやちから)

土屋主税   翫雀改め鴈治郎
侍女お園   孝太郎
落合其月   亀鶴
河瀬六弥   梅枝
西川頼母   寿治郎
晋其角    左團次
大高源吾   仁左衛門

第四、
歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)

武蔵坊弁慶   海老蔵
源義経      壱太郎
亀井六郎     市蔵
片岡八郎     男女蔵
駿河次郎     九團次
常陸坊海尊    家橘
富樫左衛門   愛之助

冬の京都の楽しみ方

ここ数年、クリスマスの前後には京都にいる。最初は知り合いのオペラ歌手の第九の公演があったのが始まり。それから、毎年、南座で顔見世歌舞伎をみて、知り合いと会い、お正月前の中休みをしている。

この時期は、紅葉のころと違い、町も人々も普通に暮らしている。さすがに十二月も二十日過ぎると、修学旅行の学生たちもいない。祇園祭のような賑わいはないが、それでも、お正月の準備やら、弘法の市がたったりと、住んでいるひとのためのイベントはある。IMG_0497ss20

今年の京都は暖かい。着物で町を歩くと、寒い思いをしないですむ。人の少ない町を歩くと、たくさんの発見がある。お気に入りの店には、必ず立ち寄るようにしている。

今日は、友人と会った後で、大原に向かった。大原は、四条烏丸と、四条河原町から出ている京都バスに乗って約一時間。 それだけで別の世界が広がる。

大原御陵にお参りしてから、三千院に向かう。ここでは、クリスマスは無縁の世界。日本国、山城の国、大原郷だ。雨の予報だったが、ときおりぱらぱらと来るだけで、なんとか降らずに曇り空のまま。

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お庭を見せているだけで、心が和む。人が少ないのもポイントが高い。いつまでもここに座っていたいとも思うのだ。 悠久のときを過ごす気分だ。

三条通に戻ってきたときは、小雨が降っていた。 お昼時を過ぎて、中途半端な時間に食事をしようとするときは、三条のかつくらに駆け込む。ここは昔、パリに住むイタリア人とよく通った。揚げたてのヒレカツをいただくと元気がでる。

最近は、その帰り道に、八百一のスイートを買って戻る。ザ・ブレッドのパン・ヴァリエがマイブーム。 大丸地下のパン屋さんも大好き。

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三条にはお気に入りの店がたくさんあって、四条まで、歩きながら帰ってくる。なぜ、三条のホテルにしないかというと、南座の歌舞伎が終わって、四条まではバス一本。夜道が怖いのではなく、雨や雪の日に無理をして歩きたくないのだ。

二月に来たときは、本当に雪に閉じ込められて過ごした。食べ物屋さんが近くにある四条は、そういう意味でもありがたかった。明日は、南座の夜の部、夕方までは、お天気しだいだか、どこかに出かけようと思う。

京都四條南座「當る申年 吉例顔見世興行・昼の部」に行ってきました

京都四條南座「當る申年 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 四代目中村鴈治郎襲名披露」に行ってきました。

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1月の大阪松竹座から始まった鴈治郎襲名披露の締めくくりが京都。鴈治郎さんは、どうしても関西で見たかったので、望みが叶いました。

【玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記(ごばんたいへいき)
山科閑居の場】

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山科閑居というのは、雪の降る中、嫁入り支度で、加古川本蔵の女房・戸無瀬が小浪を伴い大星由良之助の住まいを訪ねてくるというあらすじです。それが、玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記というのは、なんだろうと、疑問符が一杯。

玩辞楼十二曲の内
雁治郎が選んだ十二曲のうちのひとつ、とわかりました。

碁盤太平記、わからないのも当然。40年振りの上演だそうです。上演に当たっての苦労などは、扇雀さんのブログを拝見しました。

扇雀さんのお話によれば、

この作品も最初は近松門左衛門の原作に沿う形で上演されましたが渡辺霞亭の手が加えられて原作とは全く違った作品に変化していきました。そこには初代鴈治 郎の工夫とアイデアが凝縮されていますが、全てお客様に楽しんで頂く。また、自分自身が作品の良さをより出すために手を加えていくそして何よりもリアリ ティを目指すといったことから改訂が加えられて来ました。

初代の雁治郎さんもクリエイターだったのですね。偽りの放蕩を重ね、妻、そして、母も縁切りし、家から追い出す。それをみていた吉良家の間者も、大石には仇討ちする本懐なしと、手紙を手渡します。

実はそれも敵方と知って、油断させるために策を設けたこと。下僕岡平は、自らが吉良家の家臣、高村逸平太だと名乗り、最後は碁盤の目を使って、吉良家の屋敷見取り図を知らせます。たしかに忠臣蔵は、太平記の時代になぞらえていました。

息子の主税が父宛の密書を預かり、密かに読んでいると下僕岡平が忍び寄ってくる。今度は文盲のはずの岡平が密書を読んでいるのを主税が見咎める。 これは仮名手本の一力茶屋のパロディ。

最初にのどかに碁を指しているのが、最後にまた碁盤が登場するなど、ここそこに伏線があって、最後にはそれがひとつにまとまるという高度な技は、渡辺霞亭がストーリーテラーだからこそでしょう。

扇雀さんは、昨年の「藤十郎の恋」のような柔らかものが得意だと思っていましたが、大石のような忍を飲み込んだような役柄も似合います。

最後の場面で、明かりを消して、親子の対面、別れを告げるところ、そして、女房りくが傘を差出し、そして、手を引っ込めずにためらっているところ。夫婦の強い愛情を感じました。別れ際が、たっぷりしていて、きれいでした。

同じく、【玩辞楼十二曲の内 心中天網島の河庄】

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こちらは、愛想尽かしで、心中まではいきません。それだけに見せ場は、治兵衛の呼び戻しの演技です。くどくどと、腰は低くで、優しいひとなのですが、腹を立てると手が出る、足が出るという大坂のお人です。

見ているこちらは泣き笑いなのですが、演ずる側は気持ちが入らないとできないと思いました。

雁治郎さんもそのあたりを語っています。

「治兵衛は恋に病い、裏切られて腹を立て、兄にはグチグチ言い訳し、ひとり小春を思い出してしゃべる。お客様にもその世界に入っていただかないと」と話し、型としてではなく、気持ちで動いている、それこそが『河庄』治兵衛なのだ。

わたしは、それを呼び戻しの美学だと思います。普通の歌舞伎は、終わったら、花道を通って帰るだけ。それが呼び戻されて、また、芝居を始める。そこに華がなければ、単なるくどさに終わってしまいます。しょうもない奴やけれど、まあ、話を聞いてやるかという気分にならないと続きません。このたっぷり感は、関西にいると普通なんですが、お国柄なのでしょうか。

夜の部も楽しみです。

昼の部

近松門左衛門 作
渡辺霞亭 脚色

第一
玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記(ごばんたいへいき)
山科閑居の場

大石内蔵助      扇雀
下僕岡平実は高村逸平太 愛之助
大石主税       壱太郎
医者玄伯       寿治郎
大石妻りく      孝太郎
大石母千寿      東蔵

第二
義経千本桜吉野山(よしのやま)

佐藤忠信実は源九郎狐  橋之助
静御前         藤十郎

第三
玩辞楼十二曲の内 心中天網島
河庄(かわしょう)

紙屋治兵衛    翫雀改め鴈治郎
紀の国屋小春   時蔵
江戸屋太兵衛   愛之助
五貫屋善六    亀鶴
丁稚三五郎    萬太郎(時蔵の次男)
河内屋お庄    秀太郎
粉屋孫右衛門   梅玉

第四
河竹黙阿弥 作
新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)

叡山の僧智籌実は土蜘の精  仁左衛門
平井保昌    左團次
侍女胡蝶    孝太郎
渡辺源次綱   進之介 (我當の息子)
坂田公時    男女蔵
碓井貞光    萬太郎
卜部季武    国生
巫子榊     梅枝
番卒藤内    愛之助
番卒次郎    橋之助
番卒太郎    扇雀
源頼光     梅玉

歌川国芳・肉筆画展に行ってきました

12/7 月曜日の夜、表参道から歩いてすぐの「本の場所」で開催された《歌川国芳・肉筆画展 いとうせいこう × 河治和香トークイベント》に行ってきました。

国芳は、浮世絵師として有名ですが、その彼が残した版本ではなく、肉筆画ということに興味があり、また、いとうせいこうさんのファンなので、このトークイベント楽しみでした。

国芳は、面倒見がよかったらしく、有名になった弟子たちもいっしょに暮らしていたようです。肉筆画は、スポンサーからの依頼で、やはり日銭になるからと描きに出向いたのでしょう。

《めりやす》ということば、伸び縮みするというよりは、滅入りやす、の意味だったのではないか。お二人のお話は、まるで江戸から生きていたかのように、真実味に溢れています。四方に作品が展示されていて、それを見ながらお話を聞くという、贅沢な環境で一時間半があっという間でした。

 

オーチャードホールで、仮面舞踏会を見てきました

12/5 土曜日、師走の最初の週末は、オペラもあちこちで開催されています。気忙しい12月でも最初の頃なら、オペラを楽しむことができるだろうという配慮でしょうか。

渋谷Bunkamuraは、地下鉄3Aの出口から歩いてすぐ。昔、ここでレンブラントの絵画を見たことや、最近では、パリ・オペラ座の『至高のエトワール ~パリ・オペラ座に生きて~』の映画をみたことを思い出しました。

このあたりは、渋谷の雑踏からちょっと切り離されていて、外国旅行をしている気分になれます。そんな中での仮面舞踏会、期待が高まります。

ヴェルディの仮面舞踏会は、愛の物語です。許されない愛、裏切り、真実、赦しがテーマになります。オペラの快楽については、次回にでも語りたいですが、このお話は、純粋に人を愛した、そんな思いを知っている人にとっては、ずしりとした重みがあります。

舞台は、アメリカ。ボストン総督のリッカルドは、秘書レナートの妻、アメーリアへの想いを募らせています。彼女もまたリッカルドを愛して、苦しんでいます。

リッカルドには、命をねらう、暗殺団がいて、仮面舞踏会の夜、命を落とすことになります。このリッカルドが、命を懸けて、愛する人は、部下の妻でした。

舞台は、レンブラントの絵に出てくるように、重厚で華やかです。絵の中の人々が動きだすように、思われました。

主役リッカルドを演ずる西村悟さん、最初は若すぎるのではと思いましたが、最後に赦しを与えて死ぬ時の大人らしさ。若くて、寛大な心をもって、人々を導くのだという立場が伝わってきます。

アメーリア役の小川里美さん。彼女が、人妻であり、子供がいるにもかかわらず、可憐な美しさをもっていないと、物語が始まりません。この配役はぴったりでした。西村さんと小川さんの二重奏もすばらしいです。

レナート役の牧野 正人さん、愛していた妻が、別の男に心を奪われていたというむずかしい役どころを、やや年上の夫の苦しみとしてうまく表現していました。

愛することの喜びと、そして、苦悩がみごとに表されていました。オペラは、非日常のお話なのに、共感することが多かったのは、作品の持つ魅力でしょうか。たっぷりと楽しんで戻ってきました。

追記、独特な存在感のあるウルリカは、鳥木弥生さん。いつもキャラクターとは違う仏像のような預言者です。衣装も表情もはっとさせてよかったです。

リッカルド  西村悟
アメーリア  小川里美
レナート   牧野 正人
ウルリカ   鳥木弥生
オスカル   高橋薫子