オペラ「KAMIKAZE-神風-」を見てきました

三枝成彰さんの新作オペラ、「KAMIKAZE-神風-」世界初演の初日に出かけた。神風というのは、特攻隊のことで、戦争のオペラなのか、と思ったら、違っていた。

戦争という異常な状況の中で、男と女が愛を貫くことの困難さ、そして、愛国の心から、死と向かい合う若者。そんな愛のドラマだった。

舞台は、鹿児島の知覧飛行場、ここで特攻隊の隊員たちが訓練され、そして、出撃を待つ。三枝さんのオペラは、始めてだったが、メロディの美しさに感動する。アリア歌詞は知子・愛子は、大貫妙子さん。哀しさ、切なさ、無念さが胸を突く。

愛子役の小林沙羅さんは、知覧まで取材に出かけている。だから、あんなに思いがこもった演技ができるのだ。

主人公の神崎光司少尉 (配役: ジョン・健・ヌッツォさん)と、土田知子 (配役: 小川里美さん)は、実在の人たち。二人が過ごす最後の二日間。婚約者を訪ねて、東京からやってきた知子は、光司が特攻に志願していることを知らなかった。白いワンピース姿の知子が象徴的だ。

二人の愛のアリアがすばらしい。最後の別れの知子が歌うアリアも、哀しく、清らかだ。昔の人たちは、本当に美しい言葉を知っていた。戦争という極限の事態では、個人というのが、まず押しつぶされる。お国のために、死んでいく若者たち。そして、残されたものだけで、国は存続するのか。

このテーマをオペラ化しようと考えた、三枝さんも、昭和の人。こういう悲惨さ、不条理さは、後世に伝えなければいけないと思う。

ここに出てくる冨田旅館のひい孫たちも、初日に見に来て、曾祖母役の坂本朱さんの演技に泣いたそうだ。

初日で、涙がでるくらい感激したのだから、最終日は、さぞかし、濃厚な歌劇になったと思う。指揮 大友直人さん、美術 千住 博さんという豪華なメンバに囲まれて、三枝さんの才気も光っていた。

最後の桜吹雪の中での終焉は、近松の心中ものを思い出させる。演出もきわだっていた。

知合いが、この作品に出ていたので、実は8月頃からチケットを購入してあった。たぶんそうでなかったら、見逃していたかもしれない。日本では、日本人による新作オペラというのが、評価されにくいのだ。そういう意味でも、この成功はうれしい。

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