サントリーホールで第九を聴く

物事の始まりは面白いです。ショットミュージックのメイルマガジンで、今年が武満徹の没後20年にあたることを知りました。

そして、サントリーホールで、武満徹:セレモニアル-秋の歌-を含む次のような演奏会が開かれることを知りました。どうして、ここにたどり着けたのか、今でもわかりません。

壹越調調子(雅楽)
武満徹:セレモニアル-秋の歌-
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125 「合唱付」

この曲は、武満の中でも珍しく典雅が官能的といわれる祝祭の色濃い作品です。わたしも聴くのは初めてだったので、楽しみでした。
そして、第九、合唱付き。この時期にサントリーホールで第九が聞けるなんて、こちらもわくわくします。歌手たちの豪華なこと。指揮者のメルクルさんも含めてみなさま、こちらの国立音大で教えていらっしゃいます。

気がついたのが公演の二週間前、お席は前から二列目のコントラバス付近。オーケストラも見渡せて、指揮者のお顔もはっきり見えます。この一体感が大好き。自分も演奏している気分になります。

みなさま、歌いながら、合唱の指揮をするのですね。メルクルさんも歌いながら楽しんでいました。 宮田まゆみさんの笙の笛もひさしぶりで、異次元に浮かぶよう。アートの神様がくれたギフトのような時間でした。

国立音楽大学 創立90周年 特別記念演奏会
国立音楽大学オーケストラ、合唱団日時 2016年6月12日(日) 14:00 開演指揮 準・メルクル出演  笙:宮田まゆみ
ソプラノ:澤畑恵美
アルト:加納悦子
テノール:福井敬
バリトン:黒田博
国立音楽大学オーケストラ
国立音楽大学合唱団

与那城 敬&小川里美 さすらいの詩 魂の歌に行ってきました

5/27 金曜日の昼の音楽さんぽ、第一生命ホール15周年記念公演
第5回 与那城 敬&小川里美
さすらいの詩 魂の歌 に行ってきました。
このお二人、オペラ研修所のときから知っています。実力派なので、楽しみにしていました。バリトンとソプラノの二重唱なのかと、想像していたら、歌曲を歌い上げてくれました。美しい音楽、美しい歌声。日頃、聞くことのない曲、それも抒情的な曲でした。 時空を旅するという音楽ばかり。

それほど大きくないホールにぴったりの歌声に、聞き惚れて、あっという間の二時間でした。いただいたプログラムには、歌詞の訳が載っているのですが、実際の曲の最中に字幕に乗るのは歌手のお二人の訳。思いが籠っていました。

愛の歌、過ぎ去った愛の歌、満たされぬ愛の歌、喜びの愛の歌、さまざまな愛が時間を流れていきます。終わって外に出ると、雨も上がって、素晴らしい一日を予感していました。もう一度聞きたいです。

日時 2016年5月27日(金) 11:00 開演(12:30終演予定)
会場 第一生命ホール  座席図を見る
出演 与那城敬(バリトン) 小川里美(ソプラノ) 巨瀬励起(ピアノ) 山野雄大(ご案内)
曲目 ヴォーン・ウィリアムズ:歌曲集《旅の歌》(与那城)
──『宝島』で有名なスティーヴンソンの詩による歌曲集。
孤独に灯される愛、星降る夜の憧れ、巡る季節にさすらう魂‥‥
暮れ空の彼方へ翼ひろげる放浪の歌。英国歌曲の絶品です!

デュパルク:戦いのある国へ(小川)
──中世のロマンスを思わせる傑作。戦場へ出た夫へ遠く想い寄せる妻の心‥‥

デュパルク:旅への誘い(小川)
──幻想の遠い国へ‥‥ボードレールの精緻な名詩を昇華した歌曲。

プーランク:歌曲集《平凡な話》(小川)
──平凡どころか非凡!詩人アポリネールの豊かな想像を見事に描く歌曲集。

◼︎アンコール
フォーレ:この世のすべての魂 Op.10-1

国際博物館の日に、上野に行ってきました

国際博物館の日とは、ICOM(国際博物館会議)が、5月18日を「国際博物館の日」とし、博物館が社会に果たす役割について 広く市民にアピールしています。

上野では、記念事業として、上野ミュージアムウィークを設け、5月18日(水) 終日無料観覧を次の博物館、美術館で開催しました。
■東京国立博物館 (総合文化展のみ)
■国立科学博物館 (常設展のみ)
■国立西洋美術館 (常設展のみ)
■東京都美術館(「公募団体ベストセレクション 美術 2016」展のみ)
■台東区立下町風俗資料館(企画展のみ)

今年は、国立博物館と、西洋美術館に絞って観覧することにしました。上野を降りると、西洋美術館の前は長蛇の列。そんなに人気のイベントなのかといぶかしく思っていると、その日、西洋美術館が世界遺産に登録というニュースが流れて、一目見ようと押しかけた人が大勢いたようです。

このイベントはいつもひっそりと行われていて、国立博物館も無料開放日の割には静かでした。ほとんどの場所で、写真が撮れるのがうれしいのです。東京都美術館の若冲展もこの頃はまだ静か。上野で過ごす一日は楽しかったです。
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團菊祭に行ってきました

今年の團菊祭は、いつもと違う。團十郎不在のあと、男伊達をどうするのかと思っていたから、海老蔵も菊之助も頑張っている。菊五郎は一時体調を崩していたが、孫の初お目見えもあって、一幕は出ている。昔、團十郎と菊五郎が張り合っていた頃を思い出すと、時代は変わっていくのだ。

もう一つの目玉は播磨屋さんの登場。團菊祭に出るのは29年ぶりとのこと。この人も孫につられて出てきたのだ。播磨屋さんと音羽屋さんを祖父にもつ、寺嶋和史(菊之助長男)くんも果報者。恥ずかしがって、ご挨拶もできないが、退場の時、手を振ってみせた。

華やかな役者が揃って、顔見せ公演のようである。

福地桜痴 作今井豊茂 補綴
一、鵺退治(ぬえたいじ)

源頼政   梅玉
猪の早太  又五郎
巫女梓   歌女之丞
九条関白  錦之助
菖蒲の前  魁春

菅原伝授手習鑑
二、寺子屋(てらこや)

松王丸   海老蔵
千代    菊之助
戸浪    梅枝
涎くり与太郎  廣松
春藤玄蕃  市蔵
百姓吾作  家橘
園生の前  右之助
武部源蔵  松緑

河竹黙阿弥 作、花街模様薊色縫
三、十六夜清心(いざよいせいしん)
浄瑠璃「梅柳中宵月」

清心    菊之助
十六夜   時蔵
恋塚求女  松也
船頭三次  亀三郎
俳諧師白蓮実は大寺正兵衛  左團次

四、楼門五三桐(さんもんごさんのきり)

石川五右衛門  吉右衛門
右忠太     又五郎
左忠太     錦之助
真柴久吉    菊五郎

夜の部
一、勢獅子音羽花籠(きおいじしおとわのはなかご)
寺嶋和史 初お目見得

鳶頭   菊五郎
鳶頭   吉右衛門
菊之助
初お目見得 寺嶋和史(菊之助長男)

鳶頭    松緑
鳶頭    海老蔵
鳶頭    團蔵
茶屋女房  萬次郎
茶屋女房  秀調
鳶頭    権十郎
鳶の者   亀三郎
鳶の者   亀寿
鳶の者   松也
芸者    梅枝
鳶の者   萬太郎
鳶の者   巳之助
芸者    尾上右近
芸者    種之助
鳶頭    錦之助
鳶頭    又五郎
芸者    雀右衛門
芸者    時蔵
芸者    魁春
世話人   彦三郎
世話人   左團次
鳶頭    梅玉

河竹黙阿弥 作
二、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)

大川端庚申塚の場
お嬢吉三    菊之助
お坊吉三    海老蔵
夜鷹おとせ   尾上右近
和尚吉三    松緑

鶴屋南北 作
三、時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)
本能寺馬盥の場
愛宕山連歌の場

武智光秀    松緑
小田春永    團蔵
四王天但馬守  亀寿
桔梗      梅枝
森蘭丸     萬太郎
森力丸     巳之助
連歌師丈巴   橘太郎
園生の局    笑也
矢代條介    男女蔵
安田作兵衛   松江
皐月      時蔵

四、男女道成寺(めおとどうじょうじ)
白拍子桜子実は狂言師左近  海老蔵
所化   男女蔵
所化   九團次
所化   萬太郎
所化   巳之助
所化   竹松
所化   尾上右近
所化   種之助
所化   廣松
所化   橘太郎
白拍子花子   菊之助

四月大歌舞伎、千秋楽に行ってきました

歌舞伎の神様というのが、いるのだろうか。偶然読んだ歌舞伎座のメイルマガジン。4月は、染五郎の『幻想神空海』。夢枕獏さんの原作全4巻も揃っている。

スケジュール表を眺めながら、行けるかなと思っていたら、明日が千秋楽。昔から、千秋楽には、何かが起こるといわれている。そして、三階席だが、いつもの八列目が1つだけ空いていた。これは、行くしかない。出かけるまでに予習をと、原作本を取り出した。いつか読もうと積読中だったのだ。一日かかって、2巻目まで読み終えた。登場人物が入り組んでいるので、新作ものは予習したほうがいい。

染五郎の新作ものはなぜか、原作も家にあって、毎回見ている。陰陽師東慶寺花だよりアテルイ、そして今回の空海だ。逸勢役は松也。勘九郎とはまた違って、コミカルさがある。児太郎(春琴)が妖しく、儚げでよかった。米吉もいつにも増して色っぽい。この若さですばらしい。

雀右衛門(楊貴妃)も美しい。この人は襲名披露のあと、先代の雀右衛門になりきっている。仕草や表情がはっとするほど生き写し。芸は伝承するのである。歌舞伎という古典から、新しいことに挑戦する力はすばらしい。続編も楽しみである。

夜の部

一、彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
杉坂墓所 毛谷村
毛谷村六助  仁左衛門
お園     孝太郎
杣斧右衛門  彌十郎
微塵弾正実は京極内匠  歌六
お幸     東蔵

高野山開創一二〇〇年記念
夢枕 獏 原作、戸部和久 脚本、齋藤雅文 演出
新作歌舞伎
二、幻想神空海(げんそうしんくうかい)
沙門空海唐の国にて鬼と宴す

空海   染五郎
橘逸勢  松也
白龍   又五郎
黄鶴   彌十郎
白楽天  歌昇
廷臣馬之幕 廣太郎
牡丹    種之助
玉蓮    米吉
春琴    児太郎
劉雲樵   宗之助
楊貴妃   雀右衛門
丹翁    歌六
憲宗皇帝  幸四郎

壽初春大歌舞伎の初日、夜の部に行ってきました

12月に京都南座で顔見世興行。お正月は、歌舞伎座で壽初春大歌舞伎というのが、ここ数年の恒例になっています。IMG_0544

オペラも能楽も行きますが、お江戸で、江戸の歌舞伎を見るのが楽しいのです。お正月はやはり、歌舞伎で始まるのが似合っている、と思っています。今年は幸運なことに初日のケチットが取れました。

みんなが待ちに待った初日、この日は、いつにもまして、着物姿の艶やかな女性が多く、見ているだけで正月気分を味わえます。歌舞伎座が新装オープンしてから、着物の方が大変増えました。お正月は、さらにそれが華やかになり、特別な気分になります。

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夜の部の演目は、お正月にふさわしく、踊りあり、武士ものあり、廓もの、恋人の別れと、歌舞伎の楽しい要素がびっしりと詰まっています。

■赤い顔の猩々は、もともと能楽から来ていますが、見ているだけで、お正月気分になれます。

■二条城の清正は、幸四郎と金太郎(染五郎長男、孫)の情愛のこもったやりとりが、祖父と孫が演じることで、二重に心打たれます。命をかけての二条城でのやりとり、清正公らしい実直で、豪胆な仕草、幸四郎にぴったりでした。左団次の家康も心に一物あって、狸親父らしく宜い出来です。

■廓文章の鴈治郎は、姿や仕草が藤十郎にそっくり、親はもうすこし、軽やかでふわふわと演じていますが、新鴈治郎も和物の柔らかさはしっかりと身につけています。芸達者な家系ですね。喜左衛門役の歌六、大人の役者になりましたね。

■片岡直次郎は、初役の染五郎。三千歳役の芝雀がたっぷりとかき口説き、それを受けて、ワルだが、憎めない色男を演じていました。育ちはいいのだが、悪事に足をつっこんだ悲劇のようなものを感じさせます。丈賀役の東蔵、ベテランのいい味を出しています。

壽初春大歌舞伎

夜の部
一、猩々(しょうじょう)
猩々   梅玉
酒売り  松緑
猩々   橋之助

二、吉田絃二郎 作
秀山十種の内 二条城の清正(にじょうじょうのきよまさ)

二条城大広間の場
淀川御座船の場

加藤清正  幸四郎
大政所   魁春
豊臣秀頼  金太郎
井伊直孝  松江
池田輝政  廣太郎
斑鳩平次  錦吾
浅野幸長  桂三
藤堂和泉守 高麗蔵
本多佐渡守 彌十郎
徳川家康  左團次

三、玩辞楼十二曲の内 廓文章(くるわぶんしょう)
吉田屋

藤屋伊左衛門   鴈治郎
吉田屋喜左衛門  歌六
阿波の大尽    寿猿
おきさ      吉弥
扇屋夕霧     玉三郎

四、河竹黙阿弥 作
雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
直侍
浄瑠璃「忍逢春雪解」

片岡直次郎   染五郎
三千歳     芝雀
暗闇の丑松   吉之助
寮番喜兵衛   錦吾
丈賀      東蔵

 

京都四條南座「吉例顔見世興行・夜の部」に行ってきました

クリスマスイブの12/24に、京都南座で歌舞伎鑑賞をしてきました。 ここは江戸の世界、しばし、現実を忘れさせてくれます。

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今年の暮れは暖かく、この日も歩くとほんのり汗ばむほど。でも、南座の中の熱気に較べれば、何のことはありません。 毎年この時期に南座の舞台をみていますが、今年の意気込みはいつもと違います。雁治郎さんの襲名披露が、ご当地、京都で締めくくりになるというのが、伝わってきます。

歌舞伎には、役者、演目、そして、襲名披露のような華が大切です。追善歌舞伎興行よりも、幹部役者が揃っての口上、何度聞いても楽しいものです。

信州川中島合戦IMG_0467ss20山本勘助の母越路は、上杉謙信方が、軍師として、勘助を招きいれようとするのが気に入らず、いろいろと難癖を付け、配膳を足蹴にする。老婆でありながら、ありえないことです。

その無礼に対して、吃りの嫁お勝が琴を鳴らしながら、詫びて、代わりに自分を手打ちにしてくれと訴える。そこで、謙信も刀の鉾を収めて思いとどまった。

というかなり難解な話です。越路を演ずる秀太郎が、自然体で天然な老婆を演じます。 歌舞伎の演目でも演ずるのに格が必要な難役です。それを必死でかばうお勝役の時蔵が熱演して、姑を思う心根が見事に表されていました。

 

土屋主税
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渡辺霞亭 作の忠臣蔵外伝のようなお話です。東京大学に霞亭文庫というものがありますが、江戸のものを熱心に集められています。江戸のことがわかっているから、このような武士の心意気を説いた物語が作れたのでしょう。

江戸時代、武士が二君に仕えないというのは、今習っている近世畸人伝にもしばしば登場します。 いまのように転職が当たり前の時代に、ここがわかっていないと話の面白さが伝わらないでしょうね。土屋主税は、本所吉良家の隣に住まいし、討ち入りの当日も騒ぎが、最初は火事かと思ったそうです。実際にはどれくらい協力的だったのか、調べてみると面白そうです。

河瀬六弥役の梅枝、若侍もうまいです。こんな人が江戸にはいたのだろうなあと、見ていました。

討ち入りと、俳諧の師匠をからめて、うまくまとめた作品だと思います。晋其角役の左團次さん、日ごろから洒脱な方なので、ぴったり。木に登ってまで様子を知りたがるところ、みなの気持ちを代表して魅せます。

雁治郎さんの主税は、駄々っ子のようでもあり、また、上品な優しい殿様でもあります。御前といわれて、じっと我慢して、見送りをしないところもかわいいです。こういうさらりとみせる作品も大切にしてほしいですね。

歌舞伎十八番の内 勧進帳
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こちらは、成田屋さんの十八番のひとつ。海老蔵さんの熱演に圧倒されました。 十一月に勧進帳は見たばかりなのですが、こちらのほうが一段と迫力を増していました。にらみも成田屋さんにふさわしく、細かな演技も練習の積み重ねがみえて、驚くばかりのできばえでした。江戸の心意気を関西に伝えてくれて、ありがとうございます。

壱太郎さんの義経も、品があって、風情を感じさせました。これからが楽しみな役者です。

すっかり、感じ入って戻ってきました。来年もまた、来ますね。

 

夜の部

第一、
近松門左衛門 作
信州川中島合戦(しんしゅうかわなかじまかっせん) 輝虎配膳

長尾輝虎    梅玉
勘助妻お勝   時蔵
直江山城守   橋之助
直江妻唐衣   扇雀
勘助母越路   秀太郎

第二、
四代目中村鴈治郎襲名披露 口上(こうじょう)
翫雀改め鴈治郎
幹部俳優出演

第三、
渡辺霞亭 作
玩辞楼十二曲の内 土屋主税(つちやちから)

土屋主税   翫雀改め鴈治郎
侍女お園   孝太郎
落合其月   亀鶴
河瀬六弥   梅枝
西川頼母   寿治郎
晋其角    左團次
大高源吾   仁左衛門

第四、
歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)

武蔵坊弁慶   海老蔵
源義経      壱太郎
亀井六郎     市蔵
片岡八郎     男女蔵
駿河次郎     九團次
常陸坊海尊    家橘
富樫左衛門   愛之助

京都四條南座「當る申年 吉例顔見世興行・昼の部」に行ってきました

京都四條南座「當る申年 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 四代目中村鴈治郎襲名披露」に行ってきました。

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1月の大阪松竹座から始まった鴈治郎襲名披露の締めくくりが京都。鴈治郎さんは、どうしても関西で見たかったので、望みが叶いました。

【玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記(ごばんたいへいき)
山科閑居の場】

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山科閑居というのは、雪の降る中、嫁入り支度で、加古川本蔵の女房・戸無瀬が小浪を伴い大星由良之助の住まいを訪ねてくるというあらすじです。それが、玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記というのは、なんだろうと、疑問符が一杯。

玩辞楼十二曲の内
雁治郎が選んだ十二曲のうちのひとつ、とわかりました。

碁盤太平記、わからないのも当然。40年振りの上演だそうです。上演に当たっての苦労などは、扇雀さんのブログを拝見しました。

扇雀さんのお話によれば、

この作品も最初は近松門左衛門の原作に沿う形で上演されましたが渡辺霞亭の手が加えられて原作とは全く違った作品に変化していきました。そこには初代鴈治 郎の工夫とアイデアが凝縮されていますが、全てお客様に楽しんで頂く。また、自分自身が作品の良さをより出すために手を加えていくそして何よりもリアリ ティを目指すといったことから改訂が加えられて来ました。

初代の雁治郎さんもクリエイターだったのですね。偽りの放蕩を重ね、妻、そして、母も縁切りし、家から追い出す。それをみていた吉良家の間者も、大石には仇討ちする本懐なしと、手紙を手渡します。

実はそれも敵方と知って、油断させるために策を設けたこと。下僕岡平は、自らが吉良家の家臣、高村逸平太だと名乗り、最後は碁盤の目を使って、吉良家の屋敷見取り図を知らせます。たしかに忠臣蔵は、太平記の時代になぞらえていました。

息子の主税が父宛の密書を預かり、密かに読んでいると下僕岡平が忍び寄ってくる。今度は文盲のはずの岡平が密書を読んでいるのを主税が見咎める。 これは仮名手本の一力茶屋のパロディ。

最初にのどかに碁を指しているのが、最後にまた碁盤が登場するなど、ここそこに伏線があって、最後にはそれがひとつにまとまるという高度な技は、渡辺霞亭がストーリーテラーだからこそでしょう。

扇雀さんは、昨年の「藤十郎の恋」のような柔らかものが得意だと思っていましたが、大石のような忍を飲み込んだような役柄も似合います。

最後の場面で、明かりを消して、親子の対面、別れを告げるところ、そして、女房りくが傘を差出し、そして、手を引っ込めずにためらっているところ。夫婦の強い愛情を感じました。別れ際が、たっぷりしていて、きれいでした。

同じく、【玩辞楼十二曲の内 心中天網島の河庄】

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こちらは、愛想尽かしで、心中まではいきません。それだけに見せ場は、治兵衛の呼び戻しの演技です。くどくどと、腰は低くで、優しいひとなのですが、腹を立てると手が出る、足が出るという大坂のお人です。

見ているこちらは泣き笑いなのですが、演ずる側は気持ちが入らないとできないと思いました。

雁治郎さんもそのあたりを語っています。

「治兵衛は恋に病い、裏切られて腹を立て、兄にはグチグチ言い訳し、ひとり小春を思い出してしゃべる。お客様にもその世界に入っていただかないと」と話し、型としてではなく、気持ちで動いている、それこそが『河庄』治兵衛なのだ。

わたしは、それを呼び戻しの美学だと思います。普通の歌舞伎は、終わったら、花道を通って帰るだけ。それが呼び戻されて、また、芝居を始める。そこに華がなければ、単なるくどさに終わってしまいます。しょうもない奴やけれど、まあ、話を聞いてやるかという気分にならないと続きません。このたっぷり感は、関西にいると普通なんですが、お国柄なのでしょうか。

夜の部も楽しみです。

昼の部

近松門左衛門 作
渡辺霞亭 脚色

第一
玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記(ごばんたいへいき)
山科閑居の場

大石内蔵助      扇雀
下僕岡平実は高村逸平太 愛之助
大石主税       壱太郎
医者玄伯       寿治郎
大石妻りく      孝太郎
大石母千寿      東蔵

第二
義経千本桜吉野山(よしのやま)

佐藤忠信実は源九郎狐  橋之助
静御前         藤十郎

第三
玩辞楼十二曲の内 心中天網島
河庄(かわしょう)

紙屋治兵衛    翫雀改め鴈治郎
紀の国屋小春   時蔵
江戸屋太兵衛   愛之助
五貫屋善六    亀鶴
丁稚三五郎    萬太郎(時蔵の次男)
河内屋お庄    秀太郎
粉屋孫右衛門   梅玉

第四
河竹黙阿弥 作
新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)

叡山の僧智籌実は土蜘の精  仁左衛門
平井保昌    左團次
侍女胡蝶    孝太郎
渡辺源次綱   進之介 (我當の息子)
坂田公時    男女蔵
碓井貞光    萬太郎
卜部季武    国生
巫子榊     梅枝
番卒藤内    愛之助
番卒次郎    橋之助
番卒太郎    扇雀
源頼光     梅玉

イタリア文化会館で『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い』を見る

イタリア文化会館では、イタリア文化を日本に紹介するイベントを数々行なっている。その中で、大好きなモーツァルトのドン・ジョヴァンニができるまでという映画を見に出かけた。
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ロレンツォ・ダ・ポンテが、ユダヤ人で、キリスト教徒に改教され、神職についていたことを初めて知った。ベネチアを追放された彼が、新天地として目指したがウイーン。当時、新しい文化を積極的に取り入れていたのだった。ジャコモ・カサノヴァの紹介状を持って同郷のサリエリから、皇帝にお目見えして、新しいオペラをモーツァルトと作るように依頼される。

アマデウスの映画はあまりにも有名だが、こちらは、『ドン・ジョヴァンニ』ができるまでの出来事を中心にしている。途中、モーツァルトの父レオポルトの死の知らせがあったり、ダ・ポンテは、初恋の人と巡り会う。ウィーンの町は一度だけ、訪れたことがあるので、当時の様子も想像できた。たぶん、冬は寒い。雪もかなり降ったのではないか。貧しい人々には、辛い時期だったと思う。お金に困っているモーツァルト、そんな中で夢のような音楽を織り上げていく。

物語では、ネタバレになってしまうが、『ドン・ジョヴァンニ』は、かつてのダ・ポンテで、死んで生まれ変わるのだと語っている。カサノヴァも脚本協力をする。昔の自分を悔いて、新しい恋人との暮らしがはじまる。これを書いて、4年後になくなるモーツァルト。89歳まで長生きし、アメリカでの『ドン・ジョヴァンニ』の初演演奏に出席したダ・ポンテ。見事な対称だ。

 

『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い』
2015年11月8日(日)

1787年、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが発表した不朽の名作
《ドン・ジョヴァンニ》。その誕生には、モーツァルトのイマジネーションを
刺激し鼓舞した劇作家、ロレンツォ・ダ・ポンテの存在があった。
オペラ《ドン・ジョヴァンニ》誕生を支えた“もうひとりの天才”ダ・ポンテに
焦点を当て、モーツァルト、ジャコモ・カサノヴァ、アントニオ・サリエリを
はじめとした多彩な登場人物とともに、傑作オペラの創作過程を描く。
監督は、『カラスの飼育』『サロメ』などで知られる巨匠カルロス・サウラ。
撮影は、三度のアカデミー賞に輝く名手ヴィットリオ・ストラーロ。二人の
偉大な“映像の魔術師”が史実から自由に発想を膨らませ、華麗なる世界を見事に
描いた傑作!
【監督】カルロス・サウラ
【出演】:ロレンツォ・バルドゥッチ、リノ・グワンチャーレ、エミリア・
ヴェルジネッリ 他
2009年/127分/日本語字幕付

2015年11月8日(日)19時(開場:18時30分)
イタリア文化会館 アニェッリホール(B2F)

11月大歌舞伎で、河内山を観る

11月3日 文化の日、歌舞伎座の夜の部に出かけた。11月は、吉例顔見世大歌舞伎で、十一世市川團十郎五十年祭に当たる。

成田屋の数ある当り役から『若き日の信長』と『河内山』を孫の海老蔵が演じ、『江戸花成田面影(えどのはななりたのおもかげ)』では曾孫にあたる堀越勸玄が初お目見得を果たします、という記念すべき興行だった。『河内山』の河内山宗俊は、海老蔵の初役である。

歌舞伎座の会場は、すごい熱気で、多くの人が成田屋を応援しているのがわかる。携帯カメラで人だかりしているのは、堀越勸玄くんのコーナー。

江戸花成田面影では、藤十郎、菊五郎、仁左衛門という花形役者が海老蔵を囲んで盛りたててくれる。ここで堀越勸玄くんのご挨拶。初お目見えというのは、役はつかないが、顔を出すという意味らしい。彼が将来の團十郎かとおもうと、長生きしてみたいと思う。

元禄忠臣蔵の仙石屋敷は、真山青果作で、畳み掛けるような会話に仁左衛門がきりりと応えて頼もしい。忍の一字が似合う人にやってもらいたい役柄だ。梅玉は、仙石伯耆守を楽しげに演じていた。

幸四郎の弁慶に富樫が染五郎、義経に松緑という組み合わせは、初めてだがしっくりと来る。染五郎の今後に期待したい。

そして、河内山だが、海老蔵がみごとに上野の高僧とお数寄屋坊主を演じわけていた。この人の独特のユーモアセンスと、人をくったようなところが合っているのだ。河内山は、美男の僧がやってこそ、物語の奥行きが出る。

同じ成田屋が得意とした、荒物の「毛抜き」でも、主人公の粂寺弾正(くめでらだんじょう)は、小野家の腰元や若衆に戯れかける。まあ、高校生対象の歌舞伎鑑賞教室では、この部分はカットされることが多いが、美男の僧なれば、宮のお側近こう仕えて、いろいろと進言もできると、見ている側にも連想させるのだ。

河内山は、もう一度見たい気がする。顔見世興行なので、どれもたっぷりで、夜の部だけで堪能して帰ってきた。歌舞伎の醍醐味は、人物と役柄の妙だと思った。

■夜の部
一、江戸花成田面影(えどのはななりたのおもかげ)
堀越勸玄 初お目見得

芸者お藤 藤十郎
鳶頭梅吉 梅玉
鳶頭染吉 染五郎
鳶頭松吉 松緑

海老蔵
初お目見得堀越勸玄
(海老蔵長男)

家橘
市蔵
九團次
右之助
仁左衛門
菊五郎

二、元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら) 真山青果 作 真山美保 演出
仙石屋敷
大石内蔵助   仁左衛門
堀部安兵衛   権十郎
間十次郎    松江
富森助右衛門  亀寿
大高源吾    亀鶴
磯貝十郎左衛門 児太郎
大石主税    千之助
伴得介     梅丸
谷土源七    橘太郎
不破数右衛門  松之助
吉田忠左衛門  市蔵
桑名武右衛門  秀調
鈴木源五右衛門 家橘
仙石伯耆守   梅玉

三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)

武蔵坊弁慶  幸四郎
源義経    松緑
亀井六郎   友右衛門
片岡八郎   高麗蔵
駿河次郎   宗之助
常陸坊海尊  錦吾
太刀持音若  左近
富樫左衛門  染五郎

四、河内山(こうちやま)河竹黙阿弥 作
天衣紛上野初花
松江邸広間より玄関先まで

河内山宗俊   海老蔵
高木小左衛門  左團次
宮崎数馬    九團次
腰元浪路    梅丸
北村大膳    市蔵
松江出雲守   梅玉