METライブビューイングで、「神々の黄昏」を観る

東劇の夏のアンコール2014、《ジークフリート》を見た後、ロビーで休憩して、ランチボックスのスパムサンドをいただきました。程よく冷えていて、これを持参したのは正解。《神々の黄昏》は、長いドラマの最終編です。あらすじはこちら

ジェイ・ハンター・モリスのジークフリート、デボラ・ヴォイトのブリュンヒルデ。今回の主役は前回同様。ブリン・ターフェルのヴォータンも同じ。チームワークができていると、持っている力が凝縮されて、すばらしい成果がでます。オペラは、決して個人プレーではなく、チームの結集力なのです。

今回は事前の舞台稽古を積んだというジェイ・ハンター・モリス。17歳の少年は愛を知り、そして、旅に出ます。なぜ、ずっとブリュンヒルデとともにいなかったのか、若さゆえに、もっと広い世界を見たかっただけなのか。夫をひとり送り出す妻、どんなに愛を歌い上げても、ここから不吉な予感がしています。

ライン川を上った場所には、策略と、罠と、そして美しい女性が待っていました。忘れ薬を飲まされて、ブリュンヒルデとの愛の日々、誓いの言葉をすべて忘れて、目の前のグートルーネにすぐに求婚するのです。この人は直球しかない。好きな人は,すぐさま、妻にしようとするのです。教育や、文明や、自己意識で素直になれない現代人と、なんという違いでしょうか。それだけに恋の思いは熱烈で、他の誰にもできない情熱があります。

領主である兄グンターと妹のグートルーネ、そして、異夫兄弟のハーゲン。彼はニーベルング族のアルベリヒが兄妹の母親との間に作った息子であり、知恵ものといわれています。この兄妹が、ハーゲンの入れ知恵で、こともあろうに、ブリュンヒルデとジークフリートをそれぞれの配偶者にしようと、画策するのです。

英雄だが、若さゆえに配慮の足りないジークフリート、ハーゲンの秘薬、忘れ薬を飲まされて、火の中に隠されているブリュンヒルデを見つけ出し、兄グンターの妃に差出します。なんという悲劇。さきほどまで、愛を奏でていた相手が、もう裏切っているのです。

狩りにいくと連れ出されたジークフリートが、ハーゲンに背中を刺されて、死ぬ前に歌うブリュンヒルデへの愛。これが一番歌いたかったのだと、ジェイ・ハンター・モリスは語っています。ラブソングなんです。

このオペラの原作者、ワーグナーがパトロンである、バイエルン国王ルートヴィヒ2世のために書いたのだとしたら、これに類推するような事件があったのではないかと、考えてしまいます。驚くべきことではなかったのかもしれません。

さて、今回もジェイ・ハンター・モリス、すばらしい演技と歌で魅了します。少し大人になった少年の純情さ、情熱、礼儀正しさ、それでいて、本当の妻を忘れてしまうという、大失点。見ているこちら側は、はらはらと大丈夫かしら、心配してしまうのです。

デボラ・ヴォイトのブリュンヒルデ、こちらも初役ながら、威厳があり、気高く、そして誇り高い女を見事に演じています。裏切りに,絶望し、嫉妬し、そして、真実が分かると、英雄とともに死んでいきます。これが適度な緊張感とともに、心にしみるような思いがあります。二人は死によって、再び、結ばれるのです。彼の両親がそうであったように、この世では、決して平安はないのだ、ということを繰り返し伝えています。

個人的な感想ですが、愛馬グラーネに乗って、死出の旅にでるブリュンヒルデの神々しさ。この場面のために、また、見たいと思いました。

4部作、全部を見終わって、METの話は、きちんと完結していて、そのプロデューサー力にさらに感心されられました。通してみることができて、理解が深まり、登場実物の心の動きも掴めたように思います。

 

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