METライブビューイングで、ジークフリートを観る

東劇の夏のアンコール2014で、METライブビューイングからよりすぐった作品が並んでいる。ワーグナーの指輪4部作も8月、9月と上映された。8月には《ラインの黄金》《ワルキューレ》そして、9月に《ジークフリート》、と《神々の黄昏を見ることに決めていた。今回は、朝11時から夜22時半までの上映である。

朝、お弁当を二食分用意した。午前の部が梅干しをいれたおにぎりと、卵焼き、サラダ。夜の部は、スパムを両面焼いて、スパムサンド。こちらは、冷媒入りのボックスに入れて、保管。デザートはオレンジ。おやつにバームクーヘンを持った。

ワーグナーのオペラは、こちらも能動的に鑑賞しないと楽しめないから、お腹がすくのだ。甘いお菓子と、酸味のある果物は必須。オペラ用にこういうセットを売り出せばいいのになあ、と思う。

さて,事前準備はこのくらいで、ジークフリートを楽しもう。この回は、ジェイ・ハンター・モリスのジークフリート、デボラ・ヴォイトのブリュンヒルデ。どちらも初役だという。ブリン・ターフェルが前作同様、ヴォータンを演ずる。

「ギャリー・レイマンは病気のため降板し、ジェイ・ハンター・モリスが出演します。 」と一文があるが、これが実は大変なことだったのだ。

この頃、実際にMETを見たひとのブログを発見。主役が降板して、舞台稽古は進み、なかなか決まらず、ギリギリのタイミングで、ジェイ・ハンター・モリスが登場した。

5時間56分の大作で、ジークフリート役の歌手は全編を通じて、歌わなければいけない。さらに最後の40分は、ブリュンヒルデを目覚めさせ、ふたりで愛の歌を奏でることになる。ずっと歌い続けて、最後は愛の歌、それもブリュンヒルデは、ここで登場するのだから、元気一杯である。サッカーでいえば、途中交代で入ってきた選手と互角に戦うようなもの。これができるのは、世界でも数名しかいないという。

それを聞いて納得することがあった。以前見たトウキョウリング (2003/4/1鑑賞)。ジークフリート役の歌手は、ジョン・トレレーヴェン。太め、短めの若者役で、なぜ、こんな人がやるのかと、ずっと疑問だった。世界で数えるほどしかいないのなら、日本で演ずるのに、慎重にならざるを得ないし、なるほどと思う。

ジェイ・ハンター・モリスは、明るく、礼儀正しいテキサス人で、感情の起伏も激しく、パワーフル。まだMETに馴れてないのも、荒削りで純真な17歳の若者ジークフリートを演ずるには、ぴったり。真剣勝負、あるいは、全力投球しているのが、観客にも伝わってくる。それはフィルム越しにも分かるくらいの清々しさだった。

ブリュンヒルデは、最後に登場するのだが、彼女はこの後の神々の黄昏で活躍する。威厳があって、神の娘にふさわしい。

ワーグナーの楽劇では、ライトモチーフがしはしば登場する。落語家の出ばやしのようなもので、それが鳴ると、だれがでるのか、気づかせるのだ。特にジークフリートは、角笛を吹くので、これが彼のライトモチーフになっている。

こういう解説もライブビューイングの中では、登場する。見る人に、適切な知識を与えてくれるのだ。

おまけ

これを書いているとき、アガサ・クリスティの「フランクフルトへの乗客」を読んでいたのだが、これに「若きジークフリート」が登場するのだ。ライトモチーフも重要なヒントになる。こんな偶然性にも驚かされた。

カーテンコールまである。恋人たちの息のあったこと。そして、みんなの満足そうな様子。成功した舞台は、出演者がみな楽しそうに見える。全力で演じたから、この表情になるのだと思う。

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