日生劇場で、オペラ「フィデリオ」を見る

日生劇場で、「フィデリオ」を見た。 小川 里美さん主演。ベートーヴェン唯一のオペラで、ドイツ語上演だった。演奏会形式は、多いのだが、オペラで、さらに日本人が主役もやるというは、珍しいのだ。

物語は、投獄された夫フロレスタンを助けるために、その妻レオノーレは、髪を切り男になって、刑務所の看守ロッコの助手として働く。誠実な仕事ぶりに、娘マルツェリーネが気に入っているので、婿にしてもよいといわれる。

一方、夫を投獄させた政敵ピツァロは、大臣の抜き打ちの訪問の知らせを聞き、フロレスタンを殺害して、証拠を消そうと企む。

ロッコは殺人を断り、かわりに墓穴を掘る仕事を命じられた。フィデリオは、その穴を掘る仕事を手伝うことで,愛する夫のそばに行くことができる。弱った夫にワインとパンを与え、励ます。するとピツァロが現れ、夫を刺そうとする。そこに立ち向かうフィデリオ。まず、妻を刺しなさいと、自らが剣の前に立ちはだかるのだった。危ういところで、大臣が到着し、陰謀はあばかれ、フロレスタンは、解放される。

全編を貫くのが夫婦の愛。愛する夫のため、強く生きるフィデリオが凛々しく、そしてけなげで、涙が出てくる。

今年は、2月のオペラバスチーユのワルキューレに始まり、ワーグナーのパルシファル、そして、二週間前のリア、とドイツオペラが続いた。

イタリアオペラに較べて、ドイツオペラは、旋律がすばらしい。魂の声そのもの。演ずる人も命がけだと思う。そんな夕鶴のような小川さんが、すべてを捨て、身を削り、危険を省みず、愛する人を救おうとする姿に万雷の拍手がわき起こった。
台詞もドイツ語、歌も歌うのだから、演ずる人は、普通の何倍も大変だったのではないか。

演出は三浦安浩さん。舞台を特定の地名ではなく、どこかの国、どこかの時代にして、哀しみや人の心の動きを際立たせている。能楽でもそうだが、抽象的にすれば、見る人の経験や感情で、どんどんイメージが膨らんでいく。

敵役のピツァロを演ずるジョン・ハオのうまさ、権力にしがみついた男を見事に演じていた。ロッコの山下浩司さんは、優しい父親で、そして、殺人の依頼に対し、任務外のことですからと、断る勇気がある。

日本では、まだあまりなじみのない、このオペラ、ドイツ語圏内では、頻繁に上演されているようだ。夫婦の愛だけでなく、権力との闘争を描いたとの解釈もあって、新演出の腕の見せ所なのかもしれない。今回は、最後にマルツェリーネがヤキーノとよりを戻す場面があって、笑えた。二番手でもいいのだ。今どきの女の子だから。

オペラの演目を重ねると同時に、演出の絶妙さを楽しもうと思った。出演者のみなさま、お疲れさまでした。観客は、大いに楽しみました。

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