芸術劇場で蝶々夫人を見てきました

ある晴れた日に、という出だしで有名な蝶々夫人。長崎を舞台にピンカートンに愛され、そして、突然彼は帰国してしまう。三年後、新しい妻を連れて、長崎に現れたピンカートン。二人の間には男の子がひとりいて、蝶々夫人は、その子を彼の妻に託して、そして自ら死を選ぶ。

大まかなあらすじはこんな感じですが、演出次第で、いろいろな肉付けができる作品だと思います。ダイジェスト版は別として、初めて全曲を通してみたのが、京都南座。三年前のこと。西本智実さんプロデュース、祇園甲部のお姐さんや、舞妓さんたちも出演して、華やかな舞台でした。カーテンコールの幕は、歌舞伎の引き幕でした。

京都なのに、南座なのに、イタリアオペラはいいなあとしみじみ思いました。そして、今回の芸術劇場の蝶々夫人、主演は小川里美さん。笈田ヨシ演出です。

笈田さんの演出は、緻密で、心の動きをきちんと現わす。まるで近松の心中物をみているような美しさです。蝶々夫人は、気高く、誇り高く、そして、少女のように可憐です。小川さんの演じた数々のヒロインの中でも、こんなに心を打たれて、涙が浮かんでくるのは初めてでした。

関西でみている歌舞伎の同じ様式です。これでもか、これでもかと心の中に突き刺さってきます。笈田さんが、神戸出身と聞いて、胸にすとんと落ちました。演出家の情熱が違うのです。

単なる悲劇ではなく、そこに一人の男と女がいて出会った。本当なら、二人して心中すべきなのに、男はかりそめの時間だと信じている。悲劇は、人の心のずれから生じて、蝶々夫人が、生真面目に、そして、夫の帰りを待っているところに始まる。

歓びをこんなに楽しそうに表現している小川さんの演技力、そして、歌唱力。それを囲む、スズキの忠義さ。こんな時代に、こんな人がいたのだろうと思ってしまいます。

イタリアオペラは、近松に通ずる、と今回は思いました。舞台装置のすばらしさ。色のバランスの綺麗さ。耳と目で、堪能しました。ぜひ、再演してほしいと思います。

指揮  : ミヒャエル・バルケ
演出   : 笈田ヨシ

蝶々さん:小川里美
スズキ:鳥木弥生
ケイト・ピンカートン:サラ・マクドナルド
ピンカートン:ロレンツォ・デカーロ
シャープレス:ピーター・サヴィージ
ゴロー:晴 雅彦
ヤマドリ:牧川修一
ボンゾ:清水那由太
役人:猿谷友規
いとこ:熊田祥子
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱 :東京音楽大学

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