フィガロの結婚を楽しんだ後は、ドン・ジョヴァンニを見ました。平日の夜ということで、若い人が多い。こちらは時代のままの設定なので、衣装がすばらしいのです。
オペラの楽しみは非日常性。ここでは、どんな贅沢も、偽りの恋も許されます。豪華な配役。見ているほうは、どこにいるのかも忘れて、ドン・ジョヴァンニの王国の捕らわれ人となります。それにしても、彼をただ一人愛していたのが、バルバラ・フリットリ演ずるドンナ・エルヴィーラのような気がします。彼女は大人の女として、彼を救いたいと思ったのでしょう。
ドン・ジョヴァンニに騎士長である父を殺されたドンナ・アンナは、婚約者のドン・オッターヴィオに、復讐してと訴えます。そして、それなしにはあなたの愛を受け入れることができないと、歌います。そして、最後の場面で、ドン・ジョヴァンニが滅びると、今度は一年の喪が明けたら、気持ちの整理もつくから、待って欲しいというのです。
そして、これはわずか一日の出来事だったということを知ると、彼女の願いも無理はないのでは、と思ってしまうのです。
レポレッロ役のルカ・ピザローニ、本当にご主人思いで、忠実な召使。殺されそうになっても、最後には主人を止め、改心させようとするのです。傑出した演技に、彼がいなかったら、ドン・ジョヴァンニの行為も際立って見えなかったと思わせます。
最後に、ドン・ジョヴァンニを演ずるマリウシュ・クヴィエチェン、貴族であり、女に手を出すのが天職ですが、頭が切れて、自信もあって、魅力的な男です。ワルのなかに見せる、少年のような純粋さ、そして、騎士であることの誇り。
今回の演出は、人々の心の動きをくっきりと見せて、作品のもつすばらしさを伝えていたと思います。
指揮:ファビオ・ルイージ 演出:マイケル・グランデージ
出演:マリウシュ・クヴィエチェン、マリーナ・レベッカ、ラモン・ヴァルガス、バルバラ・フリットリ、ジョシュア・ブルーム、ルカ・ピサローニ
上映期間 2011年11月19日(土)~11月25日(金)
予定時間 3時間55分(休憩1回)[ MET上演日 2011年10月29日 ]