毎年、この時期に京都にでかけています。暮れの慌ただしい時ですが、京のまちは、観光客も少なく、お正月を迎える人びとの素顔が見られます。今年も、南座の顔見世、昼の部、夜の部とたっぷり楽しんできました。
今回、いちばん印象的だったのが、『藤十郎の恋』。禁断の人の女房との恋物語という演目をもらった、坂田藤十郎。このままでは、いつもと同じ芝居になってしまう、と悩み抜いて、20年前からの知合い、お梶に恋を仕掛け、その反応を確かめます。偽りのようで、実は本物の恋かもしれないと、見ている方もどきどきします。
二人きりの部屋で、お梶が前掛けを外し、行灯の灯りを消して、恋に進むというとき、藤十郎はひとり去っていきます。そして、その時のお梶の様子を芝居に反映させ、芝居は連日、大入りを続けます。その楽屋に当のお梶が現れ、藤十郎が芝居のため、自分に恋を仕掛けたのだと知ってしまいます。もちろん、すべてが偽りというのではなく、本気が見え隠れしているから、始末が悪いのです。お梶は、「たとえ、芝居の稽古のためといっても、藤十郎さんに恋を仕掛けられる女子は、幸せ者」と答え、最後には自害してしまいます。芝居のために女ひとりを犠牲にして、動揺しながらも、舞台に向かう藤十郎、芸の道の厳しさを感じます。
扇雀と孝太郎のコンビが、江戸の風情を感じさせて、どこかでこんな情景があったのもかもしれないと、思わせました。役者の業のようなものが感じられてよかったです。
『恋飛脚大和往来 新口村』は、亀屋忠兵衛 梅玉 と、傾城梅川 秀太郎の二人が練れていてよかったです。道行きはある程度の経験を積んだ役者だと、深みが出て、人生の哀しさ、儚さがよくわかります。孫右衛門の我當も、足元もおぼつかない中、手を引かれての熱演でしたが、却って哀しさが、やり切れなさが伝わってきます。
『祗園一力茶屋の場』 大星由良之助は仁左衛門という豪華な役回。安定した演技の中に、遊蕩にふけながら、主君を思う心の一途さを感じました。七之助のお軽は、愛らしく、素直な心が出ています。兄の寺岡平右衛門を演ずる勘九郎も、水を得たように熱演し、二人のやりとりをみていると、亡き勘三郎も応援しているだろうなと思ってしまいます。
終演後も、芝居の余韻が残っていて、鴨川の夕暮れを眺めながら、少し歩きました。
昼の部
一、玩辞楼十二曲の内 藤十郎の恋(とうじゅうろうのこい)
坂田藤十郎 扇 雀
座元若太夫 亀 蔵
幇間久古 松 江
中村四郎五郎 亀 鶴
袖崎源次 壱太郎
仙台弥五七 松之助
霧浪千寿 吉 弥
澤村長十郎 錦 吾
宗清女房お梶 孝太郎
恋飛脚大和往来
二、新口村(にのくちむら)
亀屋忠兵衛 梅 玉
傾城梅川 秀太郎
才造 松 江
忠三女房おしげ 歌女之丞
万歳 進之介
孫右衛門 我 當
新皿屋舗月雨暈
三、魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)
魚屋宗五郎 幸四郎
磯部主計之助 橋之助
磯部家召使おなぎ 高麗蔵
小奴三吉 亀 鶴
鳶芳松 廣太郎
菊茶屋娘おしげ 廣 松
父太兵衛 錦 吾
家老浦戸十左衛門 友右衛門
宗五郎女房おはま 魁 春
十八世中村勘三郎を偲んで
四、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
七段目 祗園一力茶屋の場
大星由良之助 仁左衛門
遊女お軽 七之助
大星力弥 壱太郎
矢間重太郎 国 生
鷺坂伴内 松之助
富森助右衛門 亀 鶴
赤垣源蔵 松 江
斧九太夫 亀 蔵
寺岡平右衛門 勘九郎