日本で上演されるワーグナーの作品では、ワルキューレが多いと思う。起伏に富んだストーリーだし、各場面の見せ場も多い。【Hojotoho】「ワルキューレの騎行」はあまりにも有名で、「地獄の黙示録」にも使われ、また単独に演奏されることが多い。
私がパリ、バスチーユで見たのは、愛の物語だった。正式な結婚という手続きを踏んでいないジークムントとジークリンデの愛、そして、ヴォータンとフリッカという冷えきった夫婦。ヴォータンが愛したのは、娘、ブリュンヒルデ。その最愛の娘は、命令にそむき、罰しなければならない。二人の別れは、恋人の別れだった。
そういう意味でも、METのワルキューレ、新演出が楽しみだった。ヨナス・カウフマンが、ジークムントを演じ、デボラ・ヴォイトによる初役のブリュンヒルデ。ブリン・ターフェルのヴォータンは、前作に引き続いてであるが、圧倒的な存在感がある。
METのワルキューレは、舞台は新演出でも、心情は、いままでみたドラマに似ていた。やはりパリの演出が飛び抜けて愛の物語だったのだ。ジークムントは、カウフマンが演じることで、甘く切なさ、愛の予感を感じさせた。あれは、元気一杯の若者がやってもつまらない。苦悩や哀しみを知った男がいいのだ。そういう意味で、カウフマンは、適役だと思う。
デボラ・ヴォイトの誇り高きブリュンヒルデ。神々の長の娘として、それにふさわしい処遇を求め、最後にはヴォータンも折れて、炎で包んでやる。そこを乗り越えて、彼女の眠りを覚ますのは、英雄しかいない。このとき、ブリュンヒルデは、分かっていたのだと思う。
指揮:ジェイムズ・レヴァイン 演出:ロベール・ルパージュ
出演:ヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、デボラ・ヴォイト、ステファニー・ブライズ、エヴァ=マリア・ヴェストブルック
上映時間:5時間14分(休憩2回) MET上演日:2011年5月14日