モーツァルト「フィガロの結婚」が、オペラの入門でした。「ドン・ジョヴァンニ」も何度もみています。それなのに、「コジ・ファン・トゥッテ」は、今回が初めてなんです。
知合いの小川里美さんが、フィオルディリージを演ずるというので、祇園祭のあと、京都から駆けつけました。
会場の兵庫芸術文化センター大ホールは、2000人を収容できる本格的なコンサートホール。座ってしまうと舞台との一体感があって、落ち着きます。
今回の舞台装置のデザインが、絵画のように美しいのです。二次元の前に、生きた人間が立ち、唱い、演技するのです。
(ワークショップのときの映像をお借りしています)
「女に貞節などない」と主張する老哲学者ドン・アルフォンソ。貞節な女は、アラビアの不死鳥のように見つけることが稀なのだと、語ります。誠実な恋人を信じている二人の青年士官は、そんなことはない、自分の恋人は違うのだと、賭けをすることになります。
そんなことは知らない、二人の姉妹は、恋人たちが急に戦場に向かうことになって、ひどく落ち込み、食事も喉に通りません。そこに、異国人に変装した男たちが現れ、おたがいが別の相手を口説いて、恋心を訴えるのです。
始めはきっぱりと拒否していた姉妹ですが、死ぬことすら怖れずに自分たちを一途に思う心に引かれていくのを感じます。最後がどうなるのか、わくわくしますね。
モーツァルトの楽しげな音楽に載せて、舞台の上で恋人たちの思いが、交差します。わたしが見たのは、アジアチームの初日7/19でした。
異国人は馴れ馴れしく、恥じらいも無く、恋を語ります。フィオルディリージ役の小川里美さんは、透き通るような声で、凛と相手を拒絶し、だが、次第に心が傾いていく、苦悩をうまく演じていました。気品あふれる小川さんの、心の動きがモーツァルトの華麗な旋律に乗って、聴いているこちらまで、どきどきしてしまいます。
妹のドラベッラは、恋を楽しむのも気晴らしにいいと、割り切り方が、ドライなのですが、姉のフィオルディリージは最後まで、頑として恋を拒み、恋人のいる戦場に赴くことを考えます。
今回の舞台は、女中のディスピーナ役の田村麻子さんの演技が光っていました。狂言回しとして、アルフォンソとともに大活躍。頼もしい女中なのです。青年士官役のキュウ・ウォン・ハン、ジョン・健・ヌッツォのすばらしい歌唱力。ここまで迫られたら、ぐっと来るのも当然のことでしょう。このチームは、すでに知合いだったり、共演経験があったりと、チームワークがすばらしい。持てる力を余すところなく、表現していました。
最後の終わり方も意味深です。恋人たちは、元のさやに収まるのか、それとも新しい恋の相手と添い遂げるのか、恋心に火が付いた若者たちはどうなるのでしょう。
3時間半の長いオペラなのに、楽しくて、あっという間に終幕でした。カーテンコールの間も拍手が止みません。公演は、ちょうど半分が終わったところ、まだまだ続きます。お近くの方は、ぜひ、足を運んでみてください。きっと恋心を思い出して、戻れますよ。