季節を喪失した話

初めて欧州に出かけたのは、大学一年の秋だった。当時、祖母が海外旅行に凝っていて、ハワイ、アメリカ本土と訪れ、今度はヨーロッパに行きたいと思った。

当時は、まだ、国々で通貨も言葉も違う。65歳の祖母が一人旅で、そんな国々を巡る旅は、大変だろうと、孫であるわたしに声がかかった。【英語ができます、仏語もわかります】、と宣言して、語学の勉強を熱心にした。フランス語に慣れるために、フランス映画をたくさん見た。そして、出かけたのが、『JALパックゴールデンヨーロッパ三週間の旅』。事前にニューオータニで、ケーキ付きの説明会がある。ホテルのお風呂の使い方、なぞのビデの話。マナー、チップについての解説。まだ、海外旅行が高音の花と思われていた時代である。最初の寄港地がコペンハーゲン。

北極上空を通過する時、あなたは北極点を通過した何人目のお客様ですという、厚紙の証明書ももらった。わたしはそのグループの中の最年少。〇〇のお嬢ちゃんと呼ばれていた。日本を発ったのはたぶん10月上旬。まだ暑さが残っていて、半袖を着ていた。ヨーロッパはすっかり晩秋。三週間すぎて戻ってくると、半袖のひとはいなくて、すっかり秋が深まっていた。自分の知らないうちに、季節が飛んで行ってしまったのだ。

同じことは、年末年始に休暇をとって、ハワイにいったときも感じた。暮れの慌ただしさもなく、新年の恒例のお正月番組もなく、気がつくと、一年が終わって、新しい年が始まっていた。

4月末から5月にかけての令和騒ぎも同じだと思う。この時期、日本にいなかった人にはのあのカウントダウンのような、新年のような御世代わりはわからなったはずである。日頃、気づかずに暮らしているが、案外、身体は季節の変わり目を覚えている。

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